沖江 志光

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「裏山での約束を忘れないように tjps」
気がつくとポストに入っていた手紙にはただそれだけが書かれていた。
大学卒業を卒業し、就職を目の間に控えた春休みの朝、不思議なそれを片手に俺は首を傾げた。
ただのいたずらかと思ったが、何かが引っかかる気がする。
「特に予定も無いし行ってみるか」
誰に聞かせるでもなくそうつぶやくと俺は出かける支度を始めるのだった。大学生でも社会人でもない。そんな中途半端な日々を持て余していたのだった。

裏山と言われて思い当たるのはただ一箇所だった。通っていた小学校の裏にちょっとした小山があり、よく小学生の遊び場になっていたのだ。
「変わらないな」
電車で30分。中途半端な距離にあるそこにたどり着いて初めに出た感想がそれだった。
小学校も春休みなのか校庭ではまばらに遊んでいる小学生が居るだけだった。
自分もよく放課後など遊んでいたものだと懐かしい気持ちになりながら、裏山への道へと向かう。
自分はいつも仲のよい友達とよく学校の横の小道を通って山の方へと向かっていたのだった。

うろ覚えのつもりだったが歩いて見ると色々と思い出すようであまり迷うこともなく小山の山頂までたどり着いた。小学生の頃は広い遊び場のつもりだった山も改めて登ると30分足らずで頂上まで着いてしまい。時間の流れを感じてしまう。
頂上にはちょっとした広場といくつかのベンチが備え付けてあり、ベンチに寝そべっている人が1人いる以外、平日なこともあり閑散としていた。

「懐かしいな」
広場から辺りを見回すと広場の隅に大きめの岩が有るのが目に止まった。
「そういえば昔、ここで…」
何か記憶が引っかかり近くへと寄って行った所で、不意に後ろから声がかかった。
「その岩はもう少しで無くなってしまうらしいですよ」
声に驚いて振り返ると、そこには同年代に見える1人の女性がいた。
「綺麗に整備して公園のようにするみたいです」
そう言って指差す先には確かにそれらしき予定の書かれた掲示板があった。
「そうなんですね。昔、この辺りでよく遊んで居たので少し寂しく感じてしまいますね」
急に話しかけられたことに戸惑いながら、しかし本心でそう応えた。それと同時に目の前の女性に既視感を覚えて記憶を探る。
「私のこと、覚えてないです?」
不意にそう言って笑った女性の顔が急に、小学生の時に遊んでいた友人と重なったのはその直後だった。
「あっ」
「君は全然変わらないからすぐに分かったよ」
「逆にそっちは凄く変わったね。びっくりしたよ」
そこからはあっという間だった。
彼女の久しぶりだし別の場所でゆっくり話さないという言葉に誘われて山を下りた喫茶店で昔話に花を咲かせたのだった。

その女性が昔タイムカプセルを一緒に埋めた仲であの日が約束の日だったことを思い出したのは山頂がすっかり整備されて目印の岩が影も形もなくなったころだった。

10年後、すっかり忘れていたそんなことを思い出したのはとある広告がきっかけだった。
「過去へ手紙を送りませんか?」
Time jump post serviceなる怪しげな名前のその会社はしかし、最近話題のタイムマシン系のサービスの会社らしかった。自分自身にしか送れない。過去にも未来にも大きな影響を与えない内容しか送れない。無記名に限る。など複雑な条件が並ぶかわりに非常に安価なそのサービスは、一つの心残りを思い出させるのには十分だった。1人の人がタイムカプセルを開けられるかどうかが大きな影響になるわけがないだろう。そう思い立ってメッセージを送ることを決めたのだ。
「しかし、どうしてあの時教えてくれなかったのさ」
「私も忘れてたんだよ」
そう言って笑う彼女の顔は小学生の時から変わらない。そんな雑談をしながら2人で過去へのメッセージを送るのだった。

「絶対に先手を取ること tjps」

2/16/2026, 12:14:47 PM