しそわかめ

Open App

Love you

「愛なんていつも傲慢で、挑む価値もない」

 そう吐き捨てた彼の顔は濡れていて、握り潰した愛の言葉は雨に流され黒く滲んでいた。
 彼は誠実な男だ。愛に応え夢を語り、自身の苦痛なんて見せやしなかった。だから、涙だって見たことはない。大丈夫が口癖で、自身よりも他人にそう語る方が格好が付くと、酒を煽りながら笑っていた。彼の笑顔は記憶に新しい。真面目な顔して机に張り付いているのも、困ったように眉を下げるのも、小柳にはずっと褪せて見えた。
 だから、拍子抜けしていた。伊波が顔を歪めているのも、その瞳が濡れているのも見慣れない。言葉は選べなかった。どれを選んでも間違いな気がしていた。握りしめられた拳が痛々しくて、小柳はそっと手を握ることしかできなかった。

「伊波」

 静かに拳を撫でていた。伸びた爪が手のひらに食い込んでる。ピアスだって痛いのが嫌だと言っていたのに、こんなの、いい事なんてひとつだってありやしない。

「……ろう」
「帰ろ、ライ」

 愛の言葉なんてクソ喰らえと思う。それは時に軽薄で重く、苦くて酸っぱくて甘ったるい、感謝の音を孕んだかと思えば、一瞬のして憎悪に転じる。

「そんなもの、信じなくていいよ」

 靴先が雨を弾いて重くなる。道なんて見えなくて、握った手のひらは冷たかった。進む先だってきっと見えないのに、俺たちは明日も駆け出さなければならない。

2/23/2026, 3:52:14 PM