極星

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あなたのことを誰よりも愛している。そんな陳腐でどこにでも転がっているような言葉しか、僕の頭には浮かんでこない。
それはきっと、今の僕の胸が溢れんばかりの幸福で満たされているからだろう。
昨夜はあなたと夜更けまで酒を酌み交わし、同じ床についた。そうして今のあなたは僕を抱きしめながら、あどけない少年のような顔をして、静かに眠りの中にいる。
僕のことを抱きしめる腕も、柔らかな寝息も、時折むにゃむにゃと動く口も、全てが愛おしくてたまらない。

「大好きですよ。あなたが大地に還るまで、ずっと一緒に生きていきましょうね」

ああ、この世界の理なんて無視して、あなたと添い遂げられたらいいのに。そんな空想に浸り始めると、先程までの幸福感は一瞬で吹き飛び、僕の胸は不安で満たされてしまう。
あなたが人間として亡くなりたいのなら、それもいいだろう。それはあなたの自由なのだから。
だがしかし、何故死後のあなたの魂を大地に還さなければならないのだろうか。いや、理屈では分かっている。それが世界の理だからだろう。
きっとこれは僕の心の問題だ。あなたという恋人が出来てから、僕は幸福と絶望を行ったり来たりしている気がする。
あなたという恋人に出会えた幸福と、あなたと同じ時を生きられない絶望。
そうして今まで思いもしなかったことばかりが、僕の頭を巡っていく。
あなたを離したくない。ずっと傍にいたい。そんな激しい愛が僕の胸で踊り、狂気じみた空想へと僕を誘なう。

「いっそ僕たち二人が混ざりあって、一つの炎になれたらいいのに」

そんな恋を知ったばかりの少年のような空想を、ポツリポツリと眠っているあなたに話すのが、最近の僕の日課になってしまった。この葛藤を誰かに話せば楽になれると知っている。そしてその相手はあなたが最適だということも、知ってはいるのだ。
あなたは優しくて誠実だから、起きている時にこんな話を突然したとしても笑って聞いてくれるだろう。
でもこんな空想は、格好悪いからあなたには聞かれたくない。だって僕は、あなたの前では格好いい歳上の恋人でいたいから。

「本当に愛しているんです」

空想に浸ったあとに残るのは、虚しさと孤独感だけ。それでもこの日課を手放せないのは、心のどこかで拠り所にしている部分があるからだろう。

2/16/2026, 4:15:03 PM