ガヤガヤと騒がしい野次馬の声も、近付いてくる救急車とパトカーのサイレンも、全てが遠のいているようで、僕の耳には上手く入ってこない。耳鳴りが酷くて、何故か目の前が霞んで見える。不思議に思って、どうしてこんなことになっているのか君に聞こうとしたのに、声が出なかった。ぷつん、と意識が途切れて、次に目が覚めた時にはもう、無機質で真っ白な天井だけがそこにあった。
がら、と間の抜けた音がして、看護師の人が病室に入ってきた。
「あ、目が覚めたんですか!せ、先生を呼んできます!」
パタパタと駆けていく足音が遠ざかっていくのを、僕はどこか他人事のように聞いていた。どうやら僕は、大学内に侵入した通り魔に刺された、らしい。
その後、何かたくさん質問をされて、診査をして、またたくさんの検査をして、僕は病室に戻ってきた。何かと騒がしい1日だったが、幸い僕の怪我は大したこともなかったようだ。これなら入院もそこまで長引かないと、診査してくれた先生が言っていた。
「あの……ところで、アイツは?僕と一緒にいたはずなんですけど……」
そういえば、と思い出して、ふと目の前の医師に聞いた。医師は気まずそうな顔をして口を開いたが、その声はノイズがかかったように荒れていて、上手く内容を聞き取れない。何度か聞き返したが、結局聞こえなかったのでもう諦めた。
その日の夕方。ドアの開く音がして目を向けると、彼が立っていた。医師の声は聞こえなかったが、どうやら怪我もせず、無事だったらしい。
「……大丈夫だったか?まぁ、起きていられるのなら大丈夫だとは思うが……」
彼らしい、堅苦しいような口調が、無性に僕を安心させる。その日は夜まで話し込んで、とっぷり日も暮れたところで彼は帰った。
次の日も、その次の日も、彼は僕を見舞いに来た。よほど心配してくれていたのか、朝から晩までずっと付きっきりなのだ。学校は大丈夫なのかと聞きもしたが、あの通り魔事件から、一時休校中らしい。
けれど、不思議なこともあった。僕を見る周りの目が、少し変わった気がする。特に、彼といる時は。彼の名前がいつも呼び間違えられていて、その度彼は相手の耳元で、訂正しているのか何かを囁く。そういった違和感の後、彼は決まって、困ったようにはにかむ。そして、いつも言うのだ。
「まぁ……仕方ないことだ。周りも分かってくれるだろう。」
よく分からないが、彼と過ごす日々が続くことに僕は酷く安堵している。あの日、彼が死んでしまうのでは、なんてあり得ない考えをしてしまったから。
「そうかなぁ……まぁいいや。……これからも、ずっと一緒にいてね。」
「……ああ、勿論だ。……やっと、ここに立てたからな。代替品としてだって構わない。俺も、お前と居たいんだ。」
彼の笑顔に、また少しの違和感が積もった。けれど、もう気にしないで、僕は病室に戻ることにしよう。彼がいるのなら、僕は何だっていい。
たとえ、彼が虚構に過ぎなくたって、偽物だったって、なんでも。
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2/22/2026, 8:22:57 AM