俺はあの日、あの腐りきった世界の中で、何より眩しく光る太陽を見た。
まだ小さく何の力も無かった俺をただ拾い、教養とこの世界での生き方を教えてくれた。あの人がいたからこそ、俺は人として生きることができた。全うではなくても、日の下を歩くことはできなくても、それでも良かった。元々、俺は綺麗な人間じゃないから。だから、せめて俺を受け入れてくれたこの街のための必要悪になれればよかった。
でも、それが今変わろうとしている。俺は目の前に瀕死で座り込んでいる子供を前に、延々思考を巡らせていた。もちろん、この街に住む子供なのだから救ってやりたい気持ちが大きい。けれど、いざ自分が光の真似事をしようとするのが怖いのだ。汚い自分がどれだけ真似たところで、それは偽善にしかならないのではないかと。本質的にこの子のためには、ならないのではないかと。
目の前の子供の容態は悪化していく一方で、ウジウジ悩んでいる暇もなさそうだ。俺は上等なスーツが汚れるのも、部下の制止も構わずその子を抱き上げた。腕の中の重みが、やけに高い体温が、怖かった。
案の定身寄りの無かった子供を、俺は引き取った。俺一人で育てきる勇気なんて無かったから、忙しいという大義名分で誤魔化して、ほとんど部下に丸投げだったと思う。
それでも、不慣れな料理や寝かし付けもしたし、学校で高熱を出したと電話があれば会談を飛び出して迎えに行った。そんな努力は、案外子供にも伝わっていたらしい。
結婚式の会場、一番前で子供の晴れ姿を見ながら、過去とともに不意に浮かんだ涙を拭う。男ばかりの組織で、あーだこーだと騒ぎながら育てたのが遠い昔のようだ。
あの日か細い息をしていた子供は、すっかり端正な顔の男に成長した。花嫁から家族への手紙の後、花婿からも読まれるものだから驚いてしまった。
俺はどうやら、あの日俺を救ってくれたあの人の光に、太陽に、少しでも近付くことができたようだ。彼は俺を星と評した。か弱くても、頼りなくても、確かに確固たる光を放つ星。そんな風に見てくれていたのだと、また一粒、涙が頬を伝った。
テーマ:星になる
12/15/2025, 7:59:25 AM