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2月14日。
放課後の教室には、まだ少しだけチョコレートの甘い匂いが残っていた。
私は、渡せなかった小さな箱をコートのポケットに入れたまま、窓の外を見ていた。
雪は降っていないのに、空は白くて、何もかもが遠く感じる。
「また来年ね」
一年前、そう言って笑った君は、もうこの街にはいない。
転校の日、ちゃんと伝えればよかったのに。
冗談みたいに笑って、手なんて振って。
駅まで走れば、まだ間に合ったかもしれない。
でも私は、今日も走らなかった。
家に帰って、机の引き出しに箱をしまう。
賞味期限の数字を見て、少し笑う。
来年もきっと、私は同じチョコを買う。
そしてまた、渡せないまま春になる。
甘いはずなのに、どうしてだろう。
バレンタインの味は、少しだけしょっぱい。

2/15/2026, 4:32:19 AM