田中 うろこ

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 見えない未来は、いつも確かに仄暗い。そう思えるようになったのはいつからだったろうか。昔から木偶の坊と呼ばれるほど足がとろかった。大切なときにはいつも間に合わず、小学校の卒業式には寝坊して裸足で向かったのをよく覚えている。こんな自分なんて、いなくなれば良いと。    
 幼稚園に行くまでは、世界がちゃんと明るかった。幼稚園に行くと、自分よりも多くの言葉を話し、庭を自由に駆け回る同じ年の子どもたちを見た。それまでは、家という箱庭の中でぼくの自由を謳歌していたというのに。
 きっかけは高校二年のとき。
 唯一の親友と笑顔で帰りに別れた翌日のこと。彼は首を吊ったと、彼の母経由でうちの母から伝えられた。母の目には涙が浮かんでいたのに、僕の目には湿り気一つもなかった。
 『なあ、俺が死んだら俺のぶんも生きてくれるか。お前は、俺より自由になってくれよ』
『ああ、もちろんもちろん』
そうやって軽くいなした言葉が、最期になるなんて思ってなくて。絶望の淵に立った。
 そこから自由について考えた。









わかったんだ。彼の言っていた自由が。たしかに僕はのろまだし愚図で脳みそもおじゃんになりかけているいわば生ける屍。だけど、まだ水を飲める。飯が食える、人と話せる。金を稼げる。人を変えられる。人に認められる。

自分次第だってこと、今更気がついた。そしてそれが、とてつもなく労力のいるものだということも。だから僕は、彼のぶんと合わせてちょうど一人分の頑張りをした。すると、世界には常に光が指していたと気がついた。

僕の進む道は、ひたすら暗い。だけれども、そこにはいつだって、差し込む一筋の光があった。
 

11/21/2025, 2:10:21 AM