古菱

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お題:スマイル

 笑顔が可愛いっていうのは可愛い女子に必要不可欠な要素だ。
 可愛い女子からほど遠い私は、夕暮れの教室で重いため息をつく。
「笑顔が可愛い女子っていいよね」
「はあ」
 江田は、男にしては綺麗な字で学級日誌を書き続けている。一応反応はしてくれたものの、こいつ急にわけわかんないこと言いはじめたな、という雰囲気を隠すことなく纏っていた。そんな江田に構わず私は続ける。気配りしなくて済む江田との距離感は心地よい。
「印象いいし、女の私でもたまにどきっとする」
「お前よく笑ってんじゃん」
「私のは『ぎぎぎ』って感じ。可愛い笑顔は『にこっ』なの。全然違う」
 スマホのカメラロールを見て顔をしかめる。この前の文化祭で女友達と撮った写真で、私は不細工に前歯を見せていた。全然理想の笑顔じゃない。
 上手く笑顔を作れないから、写真を撮られるのが苦手だった。口角を上に引き上げて歯を見せればいい感じの笑顔になれると思ってたのに、顔が引きつってて全然可愛くない。歯医者の検診でもないのに、いーっの口をしてるだけだ。
 学級日誌がぱたりと閉じられる。江田は無事に日誌を書き終えたらしい。スマホから顔を上げた私と江田の視線がかち合った。
「俺はお前が笑ってんの可愛いと思うけど」
「はあ?」
「自然な感じがいい」
「この写真とか見てよ。全然可愛くない」
 とんちんかんなことを言いはじめた江田にスマホの液晶を押し付ける。引きつった顔でピースする私と友達の写った写真。「ほら絶対私よりこっちの子の笑顔のほうが可愛いって」と指さしたけど、江田はスマホを一瞥したあと真顔で私を見て言った。
「あばたもえくぼってやつなんだろうな」
「あば? なにそれ死の呪文?」
「ちげえよ。辞書引きゃわかる」
 頭の悪い私には江田の言いたいことがさっぱりわからない。
 難しい宿題を前にしたときと同じように途方に暮れる私を放って、江田は荷物をまとめる。肩に鞄をかけて学級日誌を手に江田はそのまま教室を出て行った。

2/9/2026, 3:17:06 AM