(夜空を越えて)(二次創作)
ロイドは行商人である。
縁あって、かつては世界規模のバザールが行われていたそよ風タウンに滞在している。初めはここを拠点にあちこちの街に仕入れに出掛けていたが、ここ最近はとある人物の影響で、旅の終わりを迎えこの街への定住を決めた。
その人物――牧場主ハルカが、ロイドの目の前を横切ろうとしていた。
「ひゃっ!」
反射的に、つい、腕を伸ばして捕まえてしまった。ハルカはというと、びっくりしたものの、下手人の顔を見て、ぱっ、と瞳を輝かせた。
「ロイド!ちょうどいいところに!」
「オレを探していたのか?」
時刻はそろそろ宵闇迫る夕刻である。朝や昼間と変わらず走り回る彼女の体力は、さすが牧場主と言ったところか。ハルカは、ロイドの手を取ると、ぐいっと引っ張る。
「ん、オレをどこに連れていくつもりだ」
「イイトコ!」
彼女の行く先は彼女の牧場の、牧草地になっている丘の上だった。あっという間に暗くなった空、こんな時間に異性と二人きりだが彼女は一向に気にする気配もない。ただ、とても嬉しそうに向こう側を指すのだ。
遠く離れた街があり、ふわふわと光るものが無数に浮かび上がってくる。
「なるほど、これは……」
「キレイでしょ?毎年今ぐらいの時期に見られるんだけど、一回ロイドに見せたかったの」
「オレを探してたのは本当だったわけだ」
何かのお祭りなのだろう。見ている間も、その光るものは途切れることなく空に浮かび上がっていく。幻想的で、絵画を見ているかのようだった。亡くなった人を忍び天に灯篭を挙げる祭りが行なわれる街を思い出した。また、同じく亡くなった人を忍び川に灯篭を流す風習のある街もあった。
そういった話をしてもよかったが、ハルカは静かに風景を見つめている。
野暮な気がして、ロイドも説明はやめにした。ちょうどその場に設置してあるベンチに腰を下ろす。彼女が良いと思ったものを分かち合う相手として選ばれたくすぐったさに、ロイドは小さく笑った。
12/11/2025, 8:27:11 PM