「世界中の誰よりもお前を愛してる」
同居人はまっすぐな目をして言った。俺は呆然と目を瞬いて、その双眸を見つめ返す。突然何を言い出したんだこいつは。どっかに頭でも打ったのか。
「って、俺が言ったとするじゃん」
「え?」
「俺がお前に『世界中の誰よりもお前を愛してる』って言ったとするじゃん」
「おお……?」
「この場合の『誰よりも』って、どこに掛かってるんだと思う?」
「ん……?」
同居人は真剣な顔で俺を見ている。突如として愛の告白をされたかと思えば、よくわからない疑問を投げかけられた。戸惑いつつ「どういうこと?」と聞き返せば、同居人は「だから」と言って、右手の人差し指をぴんと立てた。
「俺がこの世で一番好きな人間はお前ですってことを言いたいのか」
続けざまに、左手の人差し指を立てる。
「この世で一番お前のことを好きな人間は俺ですってことを言いたいのか」
両の人差し指の間で、同居人はなおも神妙な面持ちをしている。
「これどっちだと思う?」
「…………」
こいつは何を言ってるんだ。
「何を言ってんの?」
俺がそうたずねると、同居人は物わかりの悪い奴だとでも言いだけに、小さくため息をついた。なんだこいつ、と眉を寄せる俺をよそに、同居人は「いやだから」と続ける。
「ここでいう"世界中の誰か"の比較対象は、俺なのかお前なのかっていう話だな」
「……?」
「"誰か"との比較対象が"お前"の場合、俺はこの世に存在する人間、例えば自分の家族や恋人に向ける愛よりも、お前に向ける愛のほうが強いってことになる」
「…………」
「対して、"誰か"との比較対象が"俺"の場合、この世に存在する人間の中で、お前に対する愛が最も強い人間は俺ってことになる」
「はあ……」
「つまり前者は"俺が愛してる人間ランキング第1位=お前"。後者は"お前を愛してる人間ランキング第1位=俺"。わかった?」
「……まあ、言いたいことはなんとなく」
「これどっちだと思う?」
「……心底どっちでもいいが、とりあえず"愛してる"の仮定に俺を置くのをやめてくれ」
【テーマ:誰よりも】
2/16/2026, 11:22:25 AM