作家志望の高校生

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忘れたい、忘れられない人がいる。昔、公園で出会った男の子。笑顔が可愛くて、ヒーローが好きで、太陽みたいに眩しい子。あの笑顔を、それを曇らせてしまったあの日を、僕は一生忘れることができないでいる。
たぶん、出会ったときからだと思う。僕は、彼が好きだった。あの頃は友達だと思っていたけど、今思えば友達なんかよりずっと好きだった。他の何より大切で、僕にとっての一番はいつだってあの子だった。
保育園も別、家も知らない。母親の顔も見たことがないし、他の友達がいるのかも知らない。公園に行けばいつもいて、僕が帰るまでの数十分、遊ぶだけの友達だった。けれど、その数十分が1日のどの時間より楽しくて、僕は毎日、今日は何をしようかと心を弾ませながら公園へ向かっていた。気が弱くて虐められていた僕に、たった一人、笑って絆創膏を差し出してくれた子。僕は、彼が好きだった。
そんな、ある日。僕は、彼を酷く傷つけた。理由は覚えていない。きっと、子供にありがちな些細な喧嘩だった。おもちゃの遊び順だとか、砂場の山を崩したとか、そんなの。でも、そんな下らない喧嘩が、僕らの間に永遠に埋まらない亀裂を作ってしまった。
それから僕は、彼と顔を合わせることも無くなった。公園に行かなくなったんだ。少し大きくなれば、僕にもたくさんの友達ができて、他の楽しいことを知って、僕は彼のことをどんどん忘れていった。でも、あの日の酷く傷ついたあの顔だけは、ずっと心の片隅に突き刺さったまま、抜けなかった。
どうして急にこんなことを思い出したのか。高校の入学式を終えた僕は、ぼすりとベッドに倒れ込んだ。
間違えるわけがない。あれは、きっと彼だ。今日、入学式の時に目の前に立っていた男の子。身長も、髪型も、何もかも昔と違うけれど、見間違えるはずがない。右目の下の泣き黒子と、項についた小さな傷痕。幼い頃のある日、彼が教えてくれた傷。
心の片隅でずっとずっと想い続けていた彼は、思ったよりも、拍子抜けするくらい普通の男子高校生だった。昔抱いていた彼への幻想も、全部まやかしだった。
でも、彼は今、そこにいる。あの日の傷付いた顔は、もうどこにもない。それだけで僕は酷く安堵して、心の片隅に刺さったまま、膿んでどうしようもなくなった傷が、少しだけ和らぐのだ。
話さなくていい。傍にいるのは僕じゃなくていい。彼が笑っている。それが、僕の心にある小さな傷を塞ぐ、唯一の絆創膏だった。

テーマ:心の片隅で

12/19/2025, 7:42:57 AM