幼馴染の元気がない。
そのことに朝から気付いてはいたものの、学校では普通そうに振る舞っていたみたいだから、あえて今まで聞かなかった。
でも放課後、2人での帰り道でも沈んでいられたら、流石に何も聞かないわけにはいかなかった。
「…何かあったのかよ。」
「え…何が?」
「だって朝から元気なかったじゃん。」
「気付いてたの!?」
「だっていつもうるさいくらい喋るくせに、今日は朝も今も静かだし、ため息ついてるし…。」
「そっか…学校では誰にも気付かれなかったし、皆に隠せてると思ったけど、ケンには無理だったみたいだね。」
そう言ってナオは笑った。
一個上とは言っても、家が隣同士で育った俺たちにとっては年齢差もあってないような物だった。お互いの事で知らないことなどほとんど無い…はずだ。
俺はナオをじっと見つめると、ナオは観念したように話し始めた。
「たいしたことないんだよ、ホントに。ただ…見た夢の事を考えてたんだ。」
「夢…って、寝るときに見るやつの方?」
「そう、その夢。」
「どんなやつ?」
「えっとね、すっごく大きな街で、スーツを着た私がおんなじようにスーツを着た人たちと一緒に同じ方向へ歩いてる夢なんだけど…。」
「うん。」
「私、すっごくつまんなそうな顔して歩いてて、周りの人も似たような顔してて…もしかしたらそれが未来の自分かもって考えたら、怖くなっちゃったんだ。」
そう言って、ナオはまた笑った。
俺はその話を聞いて、見たことのないスーツ姿のナオを想像してみた。その姿は……
「…そうはならねーと思うけど。」
「えっ?」
「ナオはいっつも自分のやりたいことに一直線っていうか、嫌なことも嫌って言うし…だから、将来大人になってもそんなふうになる仕事はしてない気がする。」
「ケン…。」
「だから…そんな心配することねーだろ。」
うまく言葉はまとまらなかったが、伝えたいことは伝えた。
ナオはしばらく黙っていたが、やがて隣を歩いていた俺の背中をバシッ!と叩いた。
「……っ、いってぇ!!」
「うん、なんか元気出てきた!」
「だからって、なんで俺の背中叩くんだよ!!」
「ありがとね、ケン!」
「人の話聞けよ…。」
背中をさすりながら隣を見ると、朝とはうってかわって元気そうな幼馴染の顔が見えた。
俺はそれに心の中でほっとしながら、隣を歩き続けるのだった。
12/17/2025, 9:23:40 AM