狐コンコン(フィクション小説)

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(※ハッピーエンドです)

「オギャア、オギャア」

「おめでとうございます、元気な女の子ですよ。」

お医者様から渡された我が子を、たった今生まれたばかりの
温い我が子を抱いた時に

私は心の奥底で思ってしまいました

なぜ産んでしまったのだろうと思ってしまいました

看護師の方々に囲まれて、おめでとう、頑張ったねと言われてもだめでした

心の奥底は恐ろしいほどに冷え、我が子に愛情など生まれませんでした

ずっと子供が欲しかったはずなのです

愛しい人と愛しい子で幸せな家族になれるはずだったのです

なぜ愛しいと思えないのでしょうか

なぜ喜べないのでしょうか

私は分からないまま、しばらくの時を過ごし、病室へと戻りました





「お母さん、お乳をあげてやってくださいな。」

初めてそう言われた時、抵抗はありませんでした

私が栄養をやらなければこの子は死んでしまう

その事を頭で分かっていたからです

本当なら、きっと笑顔で愛おしいものを見る目で我が子を見なければいけないのに

私はそれすら出来なかったのです

あまりにも情けなく、あまりにも不甲斐なく、あまりにもみっともなく感じました

それが苦しくてたまらなくなり、私はつい口からこぼしてしまいました

「なんで、愛せないの」

留めておかなければならなかったものを、こぼしてしまいました

すると、我が子を抱いてきた看護師の方がハンカチを差し出してくれました

私はいつのまにか涙を流していたのです

「ごめんなさい、みっともない事を言ってしまって。おかしいんです、私。母親になんて、なるべき人間ではありませんでした。」

「いいえ。お母さん、それは間違いです。貴方はなるべくしてなったのですよ。」

看護師の方の優しい言葉さえ、突き抜けていくようでした

「そんなことありません。きっとこの子は生まれてくる場所を間違えたの。私なんかの元に産まれなければ、今頃笑顔を向けられていたはずなの。」

我が子の顔がどんどん濡れていくのに、涙を止めることができませんでした

愛しいと思えないのが、辛くて、苦しくて、そして我が子が可哀想で、仕方なかったのです

ですが、看護師の方は私の背中をさすりながら、気づかせてくださいました

「聞いてください。最初から我が子を愛せる母親も、もちろんいます。今まで沢山見てきました。でもね、100人の母親がいたとして、100人全員が最初から我が子を可愛いと思えないと、私は考えています。だって、命はあまりに重いですもの。」

「でも、私が産んだ子なのに。」

「ええ、この子は貴方が産んだお子さん。でも、貴方は初めて命を産んだんです。初めて自分の体から、いずれ旅立っていくものを産んだんです。全部初めてで、これからもっと沢山の初めてがあるんですよ。怖かったり、楽しみだったり、色んな感情に揉まれている最中なんです。」

そうです

私は怖かったのです

長年求めてやっと授かった我が子を明日には失うかもしれないのです

全ての危険にこれから気を張って生きていかなければならないのです

私の人生が私だけの人生ではなくなるのです

全てが0からの未知で、毎日が危険と隣り合わせということに怯えているのだと、私はようやく気がつきました

「怖くたっていいんです。ゆっくり、少しずつ、この子と接して心をほぐしてください。温かいこの子は、きっとお母さんの心も温かくほぐして、柔らかくして、笑顔にさせてくれますから。」

涙でぼやけたまま我が子を見れば、もう腹が膨れたのか、とっくに口は開いていました

無防備な我が子、何にも怖がっていない我が子

臆病な私から産まれた、我が子

"私はこの子が産まれた瞬間からこの子を失う事を恐れていた"

そう気がつくと、やっと、我が子を愛しいと思えました

心から愛しいと、愛していると、かけがえのない大事な子だと思えました

私は怯えるがあまり、自分の心を守ろうと無意識に喜ばないように鍵をかけてしまっていたのです

心の奥底は冷えていたのではなく、冷やしてしまっていたのです

「んぷ、んぷ」

少し開いた口から、空気と共に声が抜けていくのが愛おしい

もぞもぞと動くのも、愛おしい

この子を産んで良かったと、産まれてきてくれてありがとうと

やっと心から思えました。




「私の子、可愛い私の子。産まれてきてくれてありがとう。誰よりも、愛してるわ。」

2/21/2026, 4:42:36 PM