作家志望の高校生

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しんしんと雪が降り積もる街の中、帰宅ラッシュの人の波に逆らうようにして、俺は人駅へ向かっていた。
何も見るところが無いベッドタウンの駅は、帰宅時になれば駅から降りてくる人ばかり。こんな時間から電車に乗るような変わり者はめったにいない。その例外が俺なのだが。
物珍しそうな駅員の視線を受けながら、ゆらゆらとこの身を電車で揺らした。少し離れた都市へと、疲れたようなサラリーマンと参考書をめくる学生で満ちた車内に一人乗り込んだ俺はまるで異物だ。周りの人々はそこまで気を配る余裕が無いのか、誰もこっちなんて気にしていやしない。そう思えば、少しは気も楽だった。
そうしてしばらく揺られ、着いた先で人々の波に乗りながら電車を降りる。もみくちゃにされそうになりながらホームを出れば、うっすらと雪の振りしきる中、もうすっかり誰も気にしなくなった駅のイルミネーションに目を奪われつつ、俺は早足でそれを後にした。
空も真っ暗になった頃、ようやく目的地に辿り着いた。目的地は、赤十字の光る病院。面会に来たと名前を伝え、病棟の中を歩く。薄暗い病棟内は何だか不気味で、街の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
「……ん……入るぞ。」
少しだけ重たいドアを開けると、真っ白で無味乾燥な病室の真ん中、入院着を着た幼馴染が寝そべっている。返事は無い。当然だ。数週間前事故に遭った彼は、術後まだ目を覚ましていないのだから。
「……今日は雪振ってたよ。駅前のイルミネーションももう点いてた。」
日常の些細なことも、全部話して聞かせる。ほんの少しでも興味を持って、そのまま起き上がってはくれないかと淡い希望を持ちながら。
面会時間が終わるまで、俺はずっとそこで下らない話を一人でしていた。返事も無い、反応も、相槌も無い。前はうるさかったコイツの声も、もう忘れかけてしまった。
「……早く、目覚ませよな。」
お決まりのセリフ。いつもと変わらない、結局彼も目覚めないまま病院を後にする。
雪は、まだ振り続いていた。積もる雪が音を吸ってしまったかのように、街は酷く静かだ。
あの病室と変わらないような静けさが嫌になって、それを突き破るように足音を立てて走った。その音さえ雪に飲まれて、数秒後にはまた静寂が広がる。
溢れてくる涙が落ちるのを視界の端に映しながら、残酷な程の静寂に、俺はどうしようもない寂寥を感じては足を乱雑に振り下ろしていた。

テーマ:雪の静寂

12/18/2025, 7:17:10 AM