"雪明かりの夜"
突如始まった集団生活。
四六時中誰かしらと顔を合わせることに慣れなくて、時々夜中に抜け出して外を散歩していた。
建物周辺をふらふらするだけだったけど、僅かな間でも人の気配の無い場所に身を置くことで、多少なりとも心が落ち着くのを感じていた。
冬のある日、積もった雪をさくさくと踏みながら周囲をぐるりと回り、建物内に戻ろうとすると、出てきた勝手口に鍵がかかっていた。
見回りで施錠されたのか、それとも知っていた誰かの悪戯だったのかは分からないけれど。
とりあえず、まだ灯りのついている部屋の窓の下まで移動して、届かない手の代わりに石でも投げようかと振りかぶったところで。
ふと。
戻る必要あるのかなぁ、と思った。
このまま。
このまま外に座り込んでいたら朝方には冷たくなっているだろうか。
脳裏をよぎった考えに、持ち上げた手が力を失う。
ずるずると壁にもたれかかり、白く息を吐いて空を見上げる。日中止んでいた雪が、再度音もなく降り始めていた。
窓のカーテン越しに漏れる灯りを反射して、舞い降りる雪は仄かに光を纏うようで。
薄っすら感じ始めた眠気の中でぼんやりと、
綺麗だなぁ、と思った。
今になって振り返ると、随分と不適切なことをしようとしていたんだなと思う。
せめて建物から離れた場所に移動するべきだった。
朝起きて窓の外に凍死体があったら、折角の朝が台無しだもんなぁ。
まぁその後間も無く職員さんに見つかり、物凄く叱られた挙句、夜間は職員さんと同部屋に寝泊まりするようにと命じられてしまったわけだけどね。
その節はご面倒をおかけしました……。
12/26/2025, 5:59:58 PM