男子校。それは、俺達を囲むあまりにも高い檻だった。周囲の共学の野郎共は、やれ本命を貰っただの、下駄箱にチョコがあっただの、放課後女子に呼び出されただの、どれもこれも羨ましくて仕方ない話ばかりしている。
俺達のところで本命なんて貰おうものなら恐怖が勝るし、下駄箱のチョコはイタズラだろうし、女子なんて生き物はそもそもここにいないので呼び出されるわけがない。つまるところ詰みだ。どうしようもない。今年もまた、チョコ0個記録を更新するしかないのだ。
「…………彼女欲しい〜……」
心の底からの呻きである。普段はうるさいこの学校も、今日ばかりは似たような、敗者たちの悲しい呻きがこだまする。
帰り道、つい出来事でチョコを買ってみた。案の定周りには、着飾ってこれから愛しの恋人に会いに行くのであろう女子しかいなかった。そんな空間に、ゴツい運動部帰りの学ランで突撃した俺を誰か慰めてほしい。調子に乗ってラッピングまでしてもらったが、ひらめくピンク色のリボンを眺めても悲しくなるだけだった。心なしか、包んでくれた可愛らしい女性の店員も憐れむような目をしていた気がしてきた。
「クソがよぉ……俺の何が悪いんだよぉ……」
メソメソと嘆きながら、to自分、from自分のチョコを貪る。部活帰りの胃袋では、大した満足感も無かった。それどころか、虚しさが増した気さえする。
そんな俺に、大逆転チャンスが到来した。帰り道、ふと肩を叩かれて呼び止められたのだ。聞こえてきたのは、少しおどおどした女子の声。
信じられないくらいの勢いで振り向くと、そこには、綺麗にラッピングされた、少し不格好な手作りだろうチョコがあった。女子の顔を見ると、たまに通学路で見かける、近くの共学の子だった。この辺りの学校にしては珍しく真面目そうな子だったので、よく覚えている。
「あ、あの……これ……」
そっと差し出されたチョコを、内心泣きながら狂喜乱舞して受け取る。手の震えやら汗やらが気になって、女子の顔は見られなかった。
「そこの人たちが渡してきてくださいって……そ、それじゃ……」
羞恥か、あるいは別の理由か、頬を赤くした女子は、さっさと走り去ってしまった。どうやら、このチョコは誰かに託されたものらしい。
彼女の指差した方向を見た。その瞬間、俺の思考はフリーズした。
信じられないくらい意地の悪い笑顔を浮かべた、部活でつるむイツメン3人組(男)が、腹立つピースをしてこっちを見つめていた。手にはスマホ。響く録画停止の音。
次の日、俺が学校で暴力沙汰を起こしたのは言うまでもない。
テーマ:バレンタイン
2/15/2026, 8:17:10 AM