小さな貯金箱を大事そうに胸に抱えた少年が、花屋を訪ねてきた。
「一番立派な、白いカーネーションの花束をください」
店主は少年の泥だらけの靴と、ツギハギだらけの服を見て、優しい声で尋ねた。
「大切な人へのプレゼントかな?」
「うん。世界で一番大好きで大切な人に、どうしても渡したいんだ……」
少年は、貯金箱をひっくり返し、出てきた小銭を丁寧にカウンターに並べた。
商品の代金には到底足りない金額だったが、店主は「今日は特別だよ」と笑って、ラッピングを施した豪華な花束を差し出した。
少年は何度も頭を下げ、大事そうに花束を抱えて走り出した。店主は胸を締め付けられる思いで、こっそり少年の後を追った。
向かった先は、町の外れにある墓地
(ああ、やっぱり……)
あんな小さな子が、一人でお墓に花を供えに行くなんて。
そして、少年は駆け足で墓地の入り口を通り過ぎ、その奥にある古びたアパートへと駆け込んだ。
「お母さん!ただいま!」
扉が開くと、中から髪がボサボサの女がタバコを吹かしながら面倒くさそうに出てきた。しかし、少年の手にある花束を見た瞬間、彼女は顔を輝かせた。
「すごいじゃん! 成功したんだね!」
「うん! これだけ立派なら仕入れた価格の十倍以上で転売出来るよ!」
少年は得意げに鼻をこすり、二人は花束を囲んで笑い声を上げた。
『花束』
2/9/2026, 11:45:52 AM