お題:0からの
久々小説書いてみようと思ひて書くなり。
ずっと何か足りないと思っていた。
そして、それは知識だと思っていた。
前世というスピリチュアルめいたものには興味がなく。ただ人は生まれ老いて、死後は天国で裁きを待つのだと、そういった確信らしいものがあったのだ。先日まで。
時に、直感たるものは信じるに値すると思っている。
その日私は思い立って別の教室へ向かっていた。
受けていない授業。時折こうして空いた時間に立ち寄ることがあった。比較的自由なこの大学では単調な座学で1人顔の知らない生徒が混ざっていても誰も気にとめない。皆、見るのは人の顔ではなく、電子機器や書物ばかり、じっと見つめて己の視力を落としにかかっている。
話を戻して。ずっと、人生に何か足りないと思っていた。
そして私は天文学に出会い、コレだ、とも思っていた。
心の8割か9割は、強く満たされていた。
君に会うまで。
運命の出会いには、電撃が走るとか、そういった表現が良くされるだろうが、どちらかというと、ふわりと体が浮くような目眩がした。目の前が暗くなり、私は強く目を閉じて空を仰いだ。頭の位置が変わるとさらにぐらぐら揺らいだ。吐きそうなほどだった。
「大丈夫です、か?」
よく聞いた声だった。
実際は初めて聞く声だった。
「君は、名前はなんという」
「あ、えーと」
挨拶も、自己紹介もなし。訝しんで無視されても文句は言えないような状況も、彼はちょっと笑って、答えた。
ああ、そうだろうと思った。そういう男だった。
なぜ?
「私は」
名を名乗る。彼はその笑顔のまま、よろしく、はじめまして、と言った。
できうるならばこの既視感を彼も感じていて欲しいと思った。そしてこの“?”の答えを、教えて欲しかった。
それが叶わないのも、何故か分かっていた。
彼ならそうだと思ったから。
「これからよろしく」
「はい」
足りなかったものを、逃がさないように。大きな手をしっかと握りしめた。
2/21/2026, 3:03:08 PM