むかしむかし、あるところにステラという
少女がおりました。
彼女の夢はプロのバレリーナになること。
夜になるとステラは窓辺にひざまずき、
両手を組んで星に祈りを捧げます。
どうか、エトワールになれますように。
踊ることが彼女のすべてでした。
舞台に立ち、脚光を浴び、万雷の拍手に包まれる――そのためならどんな努力も惜しみません。
次の主役を決める発表会の日。
ステラは胸の前で指を絡め、今か今かと
自分の名前が呼ばれるのを待ちました。
しかし――選ばれたのはエリカ。
ステラと同い年で、
誰もが認める才能の持ち主でした。
帰り道、乾いた風が落ち葉を転がし、
ステラはとぼとぼと重い足取りで家路につきます。
努力しても、祈っても、届かない。
もう諦めるしかないのだろうか。
悶々と考えていると、
ちょんちょん、と肩をつつく感触が。
振り向くと、そこには黒いローブの人物が、
にこにことした笑みを浮かべて立っていました。
「お嬢さん、お困りのようですね」
自らを"星に命じられ舞い降りた魔法使い"と名乗る黒ローブ。見るからに怪しさ満載ですが、
傷心中のステラは誰かに胸の内を打ち明けたくて
仕方がなかったのです。
「ふむふむ、あなたは星になりたいのですね」
事情を話し終えると、
魔法使いさんはお洒落な箱を差し出しました。
中には美しいバレエシューズが収められています。
「これを履けば、あなたは誰よりも輝く
エトワールになれますよ」
誰よりも輝くエトワール。
その言葉に、ステラの心は猛火のごとく
めらめらと燃え上がります。
「ただしひとつだけ注意点が。履き続ければ、
いずれ脱げなくなっちゃうかも?」
魔法使いさんは小さな声でそう付け加えますが、
もはや彼女の耳には届いておりません。
それからステラはスター街道をまっしぐらに
駆け上がっていきました。
拍手を浴び、称賛されるたび、
人々はきらきらとした星くずを落とします。
彼女の部屋にはファンから届いた花束や贈り物、
そして星くずの入った瓶がたくさん。
最初の頃は星くずを集めるたび、心が満たされ、
喜びに包まれていました。しかし時が経つにつれ、
どれだけ溜め込んでも
満足できない身体になってしまったのです。
「どうしましょう。これだけでは足りないわ」
「でしたら、もっと輝きなさい」
もっと、もっと――。
星くずを求めて踊るうち、
ステラの足は床を離れ、影を失いました。
やがて彼女は、比喩ではなく、
正真正銘の星になったのです。
鋭く尖った足で宙を蹴り、
光をまき散らしながら、くるくると踊る星。
薄れゆく意識の中、ステラは思いました。
私こそが一番星《エトワール》よ!
次の瞬間、魔法使いさんの手が
ガシッと星を鷲掴みにしました。
「これは良い星ですね。よく熟れています」
星を袋に詰め、口をきつく縛る魔法使いさん。
そのまま袋を肩に担ぐと、
彼は鼻歌混じりに闇の中へと消えていきました。
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こうして夜空には、新しい星がまたひとつ増えました。きっと今夜もどこかで、迷える人々の願いを
叶えてあげていることでしょう。
お題「星になる」
12/15/2025, 3:15:09 AM