『凍てつく鏡』
ここの空気は淀んでいる。それは当たり前だ。ここはかつて死と隣り合わせの戦場だった。
思い出すのは「後は頼んだと」最後の力で握られた手の感触。忘れないでいることが、弔いになると信じ、深く胸に刻み込む。
勝利の美酒に舌鼓を打ったのは上層部だけだ。
戦場を駆け回った者たちは、一筋の涙を流し、空に向かって献杯をした。
戦いが終わったとしてもまだ全てが解決したわけではない。先のことは分からない。ただこれからも生きていかなければならない。いつの間にか歯を食いしばり、震えるほどに拳に力をこめていた。
かつての友の剣を見つけ歩みを進める。指を組み亡き友の冥福を祈る。
友の剣。誰が願い出ても決して貸そうとはしなかった。それほど思い入れのある剣がこんなところに捨て置かれているのは心が痛む。
そっと手に取り眺める。
っ!! なんであいつの剣にこんなものが!
そこに記された紋章は、敵国のものだった。
頭に血が昇っていく。強く噛み締めた歯茎からは血が滲んだ。
冷たく心が冷えていく。剣はまるで鏡のように己を映す。酷く歪んだ顔と凍りついた心も……
12/27/2025, 1:40:11 PM