作家志望の高校生

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「あ。」
ふわりと、真っ黒な服の袖口に、真っ白な雪が舞い降りた。ふわふわと空から無数に降りてくる結晶達は、体温でじわりと溶けてこの体を濡らしていく。湿っていく髪に、吹き付ける冷たい風。体温をどんどん奪われ、俺は思わず小さく身震いした。
「さむ……やっぱもう冬だな……」
動かなくなってきた指先を握りながら、改めて冬の訪れを実感した。着慣れないスーツは、やけに風を通して余計体が冷える。タイツの一枚でも履いてくれば良かったかと後悔したが、もうとっぷり日も沈みきって、これから帰るところなのだ。今更にも程がある。
「……なぁ、お前も寒いよな。」
直ぐ側に寄り添う親友に、何の気も無しに話しかける。返事は無い。
首元を締め付けていたネクタイを解き、第一ボタンを開け放つ。寒さは増したが、さっきまで感じていた息苦しさは多少マシになったような気がする。
「……帰るか。」
フォンダンショコラの上の粉砂糖のように、アスファルトに粉雪が降りかかっていく。そういえば、彼は大の甘党だったな、なんてどうでもいいことばかりが頭をよぎった。冷たいはずのそれは、何故か少しだけ、温かそうに見える。
「……お前が居ないと寒いんだよ。」
腕の中の親友に、またぽつりと話しかけた。冷たい、無機質な白い壺に収まってしまった親友は、もう二度と俺にあの声を聞かせてはくれない。
「……お前も、最後こんなんだったなぁ……」
さっき火葬場で見た、彼がこの世に存在していた最後の証。今はこの壺に流し込まれてしまった、遺灰。
ポケットに押し込んだ黒いネクタイに、また粉雪が降り積もる。セットする気力も沸かなかった髪は、すっかり濡れきってぺたりと額に張り付いてきて鬱陶しい。
「……寂しい。」
ぎゅう、と、シンプルな服が好きだった彼に似合わない豪奢な布を被せられた骨壺を抱きしめる。どれだけ腕に力を込めても、あの温もりはもう返ってはこなかった。
彼の遺灰によく似た、白く冷たく、そしてどこか温かな雪は、いよいよその勢いを増していく。終電間近の駅のホームで、俺は一人、濡鼠になったままベンチに座り込んで、街を白く塗り替えていく雪を、ただ静かに見つめていた。

テーマ:降り積もる想い

12/22/2025, 7:06:30 AM