この神社には面白い噂があった。
どうやら、本当に大事な人を想って祈りを送ると、その分、神社の周りに花が咲くらしい。
子供騙しだろう、と今更信じるものはいなかった。
「ねぇ、今日神社へお参りしに行かない?」
僕に声をかけた黒髪の少女はスミレという少女だった。
好きなアイドルのライブの当選祈願に行きたいらしい。
「他にこの趣味知ってる人いないしさ、お願い。ついてきて?」
僕は渋々承諾する。飛び跳ねて喜ぶ彼女は「じゃあ、放課後、校門前集合ね!」とうさぎのように去っていった。
放課後、神社に向かう。
幼馴染とはいえ、男女。
二人で遊ぶのはとても久しぶりだった。
「ふふ、デートみたいだね!」
「たかが、神社だろ?変なこと言うなよ」
照れくさい僕は少しカッコつけて答える。そんな様子を君はクスクスと笑った。
神社へ着いた。
お辞儀をして中に入る。
「よし、!神様!頼んだ!!!」
そう意気込んだ彼女はぐぐぐと祈り始めた。
そう願うこともない僕はしずかの目を瞑った。
しずかになった彼女がポツリと口にした。
「ねぇわたしね、明日引っ越すんだぁ。みんなにはね、内緒にしてたの。なんで言わなかったのって怒られちゃうね、きっと。うち、親が離婚したんだー。ママについて行くの、私。だからね、最後にね君と二人で遊びたかったんだ。」
驚いた俺は咄嗟にスミレを見ようとした。
「お願い。見ないで。。。見ないで。」
しずかに肩を揺らす彼女に僕はどう声をかけていいかわからなかった。帰り道もひんやりとした空気が、僕たちを覆っていた。
その日の夜。
布団の中で考える。
神様なんて信じてなかったさ、でも、今は
一度だけ頼っていいかな?
薄っぺらいサンダルを履いて、神社へと突っ走る。
寒い空気が喉をつつく。
もっとあったかいパジャマにしとけばよかった。
でも、そんなの今関係ない。
ただ、君を想う。それだけ。
「いなくならないで」そう言えたらよかった。
「俺とお前の仲だろ」って。
二礼二拍手一礼。
手を合わせる。目が痛くなるほど瞑る
悴んで震える手を、必死に合わせる。
どうか、
貴女が辛い思いをしませんように
心から笑えますように
好きな人とうまく行きますように
自分を好きになれますように
愛で満たされた日々を送りますように
大好きなチョコを口いっぱい食べれますように
誰からも傷つけられませんように、傷つけませんように
想いが花に変わる
言葉が束になる
好きな花を見つけられますように
花の香りを愛せますように
いつかその花束を渡せる人が現れますように。
その日の夜の神社は眩しいほどに花が咲き誇り、
花たちは鮮やかに揺れていた。
2/9/2026, 4:18:05 PM