僕にはある習慣がある。変わった奴だとか、幼稚だとか言われそうだが、僕自身はこれを辞めるつもりは無いし、これからもずっと続けていくだろう。
「今日もいいことありますように!」
家を出てすぐの、ちょっとした祠。何の神様が祀られているのかは、文字が掠れてしまって読めない。けれど、落ち葉に埋もれてボロボロだった祠がなんだか寂しそうで、掃除したのが始まりだった。それから僕は、毎朝小さなおにぎりとお茶を供えて、帰りに回収するのが習慣になった。たまに野生動物が食べているのか、おにぎりはなくなっている時もある。
今日はおにぎりにふりかけを振って、ラップで包んで供える。夏なら、後で食べられるように中々の工夫が必要だが、冬はその必要が無くて助かる。小さく手を合わせ、お決まりのセリフを唱え、学校へ向かう。この小さな祈りがどれだけ効力を発揮しているのかは分からないが、気分的になんとなく上がるので良しとしよう。
学校に着いて、席に着く。数人の友人と挨拶を交わして、今日の授業ダルいね、なんて他愛もない会話をして、そんな時間が当たり前に続くと思っていた。
昼下がり、眠気と戦いながら、気を紛らわそうと窓の外を見遣った。その時、気づいてしまった。グラウンドの真ん中に、ただ立ち竦んでいる存在に。初めは、生徒の一人が残っているのかとおもった。けれど、明らかに何かが違う。かくん、かくんと首を上下に振りながら、こちらを、見ている。この距離で、目線なんて分かるはずがない。けれど、何故か直感で理解した。目が合った。
きぃん、と耳鳴りがして、自分が何をしているのか分からなくなる。クラスメイトの騒ぐ声と、先生の怒声が聞こえた気がした。
バチンッ!
目の前が真っ白に爆ぜて、ふと意識が戻る。俺は窓をこじ開けて、窓枠に片足を掛けていたところだった。あと一歩、進んでいたら。そう思うと寒気がして、ガクリと膝から力が抜けた。
『迂闊に妙なモノを見るでない。……明日の飯は梅にしろ。』
ふと、耳元でそんな声がして、首筋にふわりとした何かが触れた気がした。
「……?」
帰宅して、あの祠のことを祖母に聞いてみた。あの祠は、お稲荷さんの祠だったらしい。あの時首筋に触れたふわりとした感触を思い出して、守ってくれたのかと、お供えは届いていたのだと、なんとなく心が温かくなった気がした。
テーマ:祈りを捧げて
12/26/2025, 6:49:31 AM