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『同情』

僕が担任するクラスの片隅には、金魚の住む小さな水槽がある。
ある日、金魚の尾びれが裂けているのが見つかった。
「かわいそう」
生徒が発したその一言で、教室は使命に燃えた。

自発的に餌当番が決まり、水替え表が貼られ、休み時間には水槽の前に人だかりができた。
『回復日記』と題された絵が描かれ
「がんばれ」と声がかかる。
金魚は、みんなの視線の中心で泳いだ。

一ヶ月後、尾びれはきれいに再生した。
「もう大丈夫だね」
水槽の前からは、人だかりが消えた。
元気に泳ぐ金魚は、誰の目にもとまらなくなった。

そして、綺麗だった水はゆっくりと濁っていく。
再び弱りはじめても、今度はもう誰も見向きもしなかった。

2/20/2026, 10:44:31 AM