【お気に入り】
濡れ羽色の黒髪。
光をたっぷり含んだ碧眼。
切れ長を縁取る分厚い睫毛。
すべてがわたしのお気に入りだった。
でも、最初からそうだったわけではない。
わたしは外国で産まれ育った。確か小学校に上がる直前まで。
それまではアジアのしっとりした顔立ちが珍しいのか、よくからかわれたり、いじめ…のようなものにも遭っていた。ので、わたしはこの容姿がだいきらいだった。
容姿に対するいじりやいじめによって疲弊していたとき、母の故郷であるニハン(日本)に移り住む話が出た。ニハンでは黒髪も彫りの浅い顔立ちも一般的であるそうだ。わたしは一も二もなく喰い付いた。
しかし、ニハンでもわたしはいじりといじめを受けた。
言語の壁である。
わたしの出身国は英語が主ではなく、ニハン語も簡単なものしか話せない。そのうえ碧眼すらばかにされる。
そうして学んだのは、分かりやすい異端を排斥したがるひとはどこにでもいるということ。
そうして、わたしを構成するものが嫌いになっていたころ。
お隣に住むお兄さんに恋をしたのだ。
染め上げた金髪と、カラーコンタクトの翠眼が特徴的な危うい雰囲気を纏ったお兄さんである。
彼はわたしを見て、一言。
『ええっ。お雛様かと思ったあ』
と、言った。
頭の中でうまく変換できなかったが、薄い微笑みが破れるように笑った、その硝子の美青年に惚れた。
音で言葉を反芻して母に尋ねると、朗らかに笑って棚を指さした。そこには王子様とお姫様のお人形。これは幼いころから自宅にあるお人形で、わたしを守ってくれるのだと言い聞かせられていた。愚痴や自慢を聞いてくれるお友達でもある。
『お雛様はこのお姫様のことよ』
と。
分かった瞬間から、わたしは恋に嵌ってしまったのだ。
わたしの持つすべてがお気に入りになった瞬間だった。
2/18/2026, 9:58:42 AM