anago.

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ある少女が着の身着のまま、手入れの行き届いた畑で座り込んでいる。道路を見下ろせる位置に座り込んでぼんやりと考え事を始めた。

怒鳴られた事が怖かった。ここで死ぬんじゃないかと思うほどに。怒らせた原因は自分にあるはずだが、全く理解できなかった。
人の話はろくに聞かず、最後には自分の話にシフトする人間の得体が知れない。
この人が望んでいる答えがわからない。

暗くなったら帰ろうと思っていた。
当たり前だ。家は家だもん。
家には赤ちゃんがいる。姉になるからしっかりしてと言われても、わからない。わからない、わからない、わからない。
仕方がないとはいえ、母も父も祖父も祖母も赤ちゃんに付きっきりだ。
居場所が無かった。
話を聞いてくれる存在は居ない。
だから、出て行けと言われた時は都合が良かった。

どこまで時間が経ったら探しに来るんだろうって。
困らせてごめんね、もう心配しないでね。

ってことだが、君たちの娘さんに傷一つもつけちゃあいないぜ?
出会い頭に神嫁にしてほしいと頼んできたからな!
それでだ。いつ頃か忘れたが、君らの爺が娘さんを俺のいる場所に連れてきてな。
ここいらじゃ力の強い神の名で通っているから、あの爺は孫を守って欲しかったんだろう。
まあ開口一番に求婚されるとは思いもしなかったが。
その後も何回か家出をした時に話し相手になった。頃合いを見て、人間の言う【神隠し】をした。何か質問があるか、ないよな?


は、娘を返せ?やらん、やらんぞ。絶対にだ。なぜ俺の奥さんのことを大事にしない奴らに手渡さないといけないんだ。
俺たちはいついかなる時もお互いを信じ、聞き、話をして、愛し合っている。
親のようであり、兄弟であり、親友のように成長を見守っていたのに、どうしてお前らに返さないといけない?
心の片隅にでも娘を慮る気持ちがあったらそんなことはないはずだからな!

奥さんに免じて多少は許してやろう。
いいか、これは俺からの餞別であり祝福だ。
【 】


はは。これで俺の望みは叶った。

12/18/2025, 2:16:40 PM