初めての場所は、いつもドキドキする。
地図アプリの導くままにだらだらした坂をのぼった。衛生の誤差なのか現在地があちこちさまよい、目的地を一度通り過ぎてしまう。
坂の中腹のささやかな階段を降りる。壁一面に、おびただしい数のポスターやチラシが貼られていた。下の方に埋もれた日付は5年前のものまであったのに、求める知らせは見つけられない。
階段を降りきった、教卓のようなカウンターでチケットを見せると、唇に2つピアスを刺した女性スタッフは、右手奥を示し低い声で「ワンドリンク制です」と言った。
バーでジンジャエールを買って端の方に立つ。ステージ前には数人の客しかいなかった。ライブハウスと書かれていたのでもう少し広い場所を想像していたが、50人も入ればいっぱいになりそうだ。
すぐに客電が落とされ、ステージが穏やかな青に染まる。演目も出演順もまるで分からなかった。何時間待つことになるかも知れない。それでもこんなにドキドキするのは、ここが知らない場所だからだ。
ライトが反射する白に青が交じる。まるであの日の雪明かりみたいだった。最後に交わした言葉さえもう記憶がおぼろげなのに、雪の中の景色だけを今も鮮明に覚えていた。私はカップを握りしめる。
やがて青が濃さを増すと、海の底に沈む雪のひとひらのように君がふらりと現れた。
『雪明かりの夜』
12/27/2025, 7:15:04 AM