今日は金曜日。
終業予定時間から15分が過ぎたが、今日中に入力を終わらせておきたいファイルがまだ残っている。
少々古い入力システムを使っているせいで、
要所要所に自分で保存ボタンを押さなければならない。
そのマニュアルを遵守しなかった後輩は
午後の作業が水の泡になっただけでなく、
苦手な上司からキツく注意を受けるハメになった。
同情はしない。でも、入力作業は引き受ける。
分担して作業したほうが早いでしょ、と言ったら
後輩は涙目になっていた。
本当は定時で上がるつもりだったが、予定通りには進んでくれないものだ。
飲み物がなくなりかけていたので、
カフェインレスのコーヒースティックを1本持って、給湯室に向かう。
コーヒーをひと口、少しだけホッとする。
あとどのくらいで終わるだろうか。
デスクに戻ると、同期が取引先との打ち合わせから帰ってきていた。
「あれ?直帰じゃなかったの?」
「出し忘れてた資料を思い出してさ。それより、見てこれ」
こそこそしながら、パソコンの画面を指差してくるので、
マグカップを持ったまま、画面を見る。
そこには「同情」と表示されていた。
驚いて同期の顔を見ると、小さくニヤリと笑う。
「簡易資料ならさ、上の行と同じ内容だったら…」
「上と同じの、同上ね」
「そうそう、そのつもりで変換したら、一番最初にこれが出てきた。すごくない?今のこの状況で」
いや、普通は笑えないだろう。
でも、この状況を知って戻ってきたということらしい。
しばらくして、後輩のデスクに向かった同期は、
未入力のファイルを受け取り、
結局全部終わるまで一緒に作業をしてくれた。
「今日はすみませんでした!本当に、先輩方ありがとうございました!」
使っている駅が違う後輩とは会社の前で別れて、同期と駅まで歩いていた。
「同情したから、手伝いに戻ってきたの?」
「ミスをした子には同情したかな。ミスはダメだけど、
今の時代、システムでカバーできることも多いのに、
この環境に置かれてしまったことは同情に値する」
「うちのシステム、化石だからね」
「それに、後輩のミスをカバーするのもオレたち先輩の役割だろ。だから、同期に対しては、同情じゃなくて共鳴かな」
また、ニヤリと笑っている。
ちょっと、ムカつく。だけど、肩の力が抜けた。
「なんか、お腹が空いたあ」
「お、じゃあ、駅前でラーメンでも食う?」
「ラーメンって気分じゃないなあ。マッハで働いたあとだから、せめて食事くらいはゆっくりしたいよ」
いい同期を持っていると知ることのできた金曜日。
さっきまでとは明らかに違う、清々しい気分に変わっていた。
【同情】
2/21/2026, 5:37:10 AM