作家志望の高校生

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ある日。ポストに変わった手紙が入っていた。
ついこの間、私は長年小説を書き続けた甲斐あって、華々しいヒット作を生み出した。出版社から送られてくるファンレターの数も倍になり、毎日読み切るのが大変なくらいだ。それでも、この時代にわざわざ紙でファンレターを送ってくれるファンは少ない。だから、私は紙のファンレターに対しては、必ず直筆で返事を書くようにしていた。
そんなファンレターに混じって、一つだけ、妙なものがあったのだ。宛名は私で間違いない。けれど、送り主の名を見ると、「十年後の君より」と認めてある。私好みのさらりとした手触りのいい紙に、趣味のいい、深い青色のような、紫のような色をしたインクの、恐らく万年筆で、その手紙は綴られていた。
内容は時候の挨拶から始まって、最近出版した、ヒットはしなかった作品の感想が書き連ねられている。ヒットはしなかったものの、自分の中ではヒットした作品よりずっと美しく描けた作品だった。中身は案外普通の、よくあるファンレターで、私は少し拍子抜けした。誰だって、「十年後の私」なんて言われたら、もしや自分は未来で死んでしまうのではないか、あるいは、大切な人を喪うことになるのではないかと嫌な方向に妄想が膨らんでしまうだろう。
読み終わった手紙を閉じようとしたところで、ふと違和感に気が付いた。その手紙は、かなり誤字が多かった。私だって、多少の誤字をすることはある。しかし、ここまでではない。それに、こんな上質なレターセットを揃えて、恐らくペンに付属のものでないインクをわざわざ使って、万年筆で手紙を認めるような人が、ここまで字を知らない事があるだろうか。
小さな違和感ではあったものの、一度気になり出すと途端に気になって仕方なくなる。そこで一度、誤字を訂正せず、誤字の読みのままで文章を読んでみたり、誤字だけを抜き出してみたりするも、特に意味のある行動とは思えなかった。
気のせいだったかと諦めて、今度こそ手紙を閉じた。私は気付かなかった。誤っていた字はどれも、「なくなる」意味を持った字だった。
その翌年のことだった。私が、事故で両目の視力と利き腕を失ったのは。

テーマ:10年後の私から届いた手紙

2/16/2026, 8:13:38 AM