はぁ、と町中に流れる軽快な音楽に似つかわしくないような、重たい溜息をつく。それはすぐに真っ白に染まって、俺の視界を一瞬だけ霞ませた。
辺りは人工的なギラギラした光を纏った木々に埋め尽くされ、その間を、腕を組んで密着しながら歩く仲睦まじそうなカップルが無数に歩いている。この場において一人で歩いているのなんて、俺くらいだ。
恋人がいないわけではなかった。これまでに数人とはお付き合いだってしてきたし、それなりの場数も踏んでいる。妹がいる俺は女の子の悩みや困りごとは大抵分かっているし、事前にそれを避けたり、手助けしたりもしてきた。それなのに、毎回振られてしまうのだ。それも、全く同じ理由で。
「優しすぎる」。それが、いつも俺が振られる理由だった。細やかなことにも気を配り、助けてくれるのは嬉しいが、付き合うには刺激が足りないのだと。そう言われていつも振られてしまう。
「……俺にどうしろって言うんだよぉ……」
ぼそりと泣き言を溢しつつ、甘ったるい恋愛ソングと楽しげな若人達の声にうんざりしながら、やたらと飾り付けられた家路を急いだ。
「ただいまぁ〜……」
ようやくあの羞恥の拷問が終わって、ガチャリとドアを開く。すると、目の前にモフモフとした何かが高速で飛び込んできた。
「ぐえっ……おい、シロ。飛び込むなって何回言わせるんだお前は……」
飛び込んできたものの正体、俺の飼っている白猫のシロを抱き上げて、リビングへ向かう。電飾の無い外は、月明かりと裸電球の街灯の光を雪が反射して、ぼんやりと白っぽく明るくなっている。
「はぁ……俺にはこのくらいが丁度いいのかもな……」
あの飾り立てられた木々よりも、この穏やかな雪明かりの方が、やたらと刺激を求める若い女の子よりも、この我儘で自己中な愛猫に尽くす方が、自分にとっては幸せなのかもしれない。
「…………でもやっぱり彼女欲し〜……」
ぼんやり明るい外に大きく溜息をつきながら、俺はシロの腹にもふりと顔を埋めて唸っていた。機嫌を損ねたシロに俺の顔面が引っ掻かれるまで、あと数秒。
テーマ:雪明かりの夜
12/27/2025, 6:49:46 AM