こつりと、爪先で小石を弄ぶ。塾帰りの夕暮れ、日はとうに落ちきって辺りは薄暗い。けれど何だか帰りたくなくて、公園のベンチでかれこれ1時間はこうしていた。
少し前にコンビニで買ってきたホットココアは、もう周囲の冷たい空気に温度を奪われて冷えている。重い息を吐きながら、また意味もなく小石を蹴飛ばした。
「君、そこで何してるの?」
眩しい光に顔を上げると、巡回中の警察官のようだ。親に連絡されるのでは、とか、補導されたら成績に響くかな、とかあらゆる不安が頭を駆け抜ける。
「こんな暗いとこいたら危ないでしょ。」
そう言った警官に腕を引かれ、俺はひとまず交番に連れて行かれた。交番内部では数人の警官が何か作業をしていたが、俺を連れた警官が入るとその手を止め、こちらへ近付いて来る。
「お疲れ。その子は?」
「雰囲気的に家出的な感じかなぁ……」
困ったように笑いながら頭を掻く彼に毒気を抜かれた俺は、ぽつぽつと話し出した。学校の雰囲気がなんとなく合わないこと、未来が不透明に思えて不安なこと、進学進学と押し付けられることへの不満、その全てを、警官達は静かに聞いてくれた。
「……そっか。ちょっと疲れちゃったか。」
そっと、控えめに頭を撫でられる。きっと、同性だから触れることへのハードルが低かったのだろう。その手にひどく安心して、何より求めていたものをもらえた気がして、俺は柄にもなく涙が止まらなくなった。
その後お茶を貰って、しばらく交番で温まった俺は家まで送ってもらった。特に未来のことが決まったわけでも、不安が解けたわけでもない。
でも、こうして優しくしてくれる大人はまだまだいるのだと思えた。それだけでよかった。
俺は何度も振り返って警官にお礼を言って家に戻り、明日のためもう少しだけ頑張ろうと机に向かった。相変わらず勉強は嫌いだし、進学先だって分からないままだが、明日への足取りは、少しだけ軽くなった気がした。
テーマ:明日への光
12/16/2025, 7:06:34 AM