たかなめんたい

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『太陽のような』

夏の匂いがした。懐かしい匂いだ。まだ一年も経っていないのにそう感じるのはどうしてだろうか、季節は一年かけて巡っていくのだから、一年経っていないのは当たり前なのだが。
そんなことを思い耽りながら、昼下がりに照り光る暖かな太陽の下を歩く。久しぶりに訪れたこの時間に、どこか嬉しく感じてしまうが、同時に心のどこかで、微かな寂しさが影を落としていることにも気づいていた。

見上げれば、芽吹き始めた枝先を揺らす風が通り抜け、陽光がアスファルトに濃い影を焼き付けている。季節は物理的な法則に従って確かに巡り、また新しい夏を連れてこようとしているのに、私の中の時間は過去のある地点からうまく進んでいないような錯覚に陥るのだ。世界が一年かけて一周する間、私だけが同じ場所に立ち尽くしている。

遠くの方で、気の早い蝉の鳴き声が微かに聞こえた気がした。まだ三月にもなっちゃいないのだから、聞き間違いに違いはない。けれど、この頭に巡る空想は、嘘だというには鮮烈だ。
額に少し滲んだ汗を手の甲で拭い、私は小さく息を吐いて再び足を踏み出す。私がここで立ち止まっていようと、時間は容赦なく巡り、否応なしに私を次の季節へと巻き込んでいくのだろう。

そうやって無理やりにでも背中を押されることを、これまではひどく恐れていた。時間が進むほどに、記憶の中の眩しい景色が色褪せていってしまうような気がしたからだ。

けれど、不意に吹き抜けた風の中に、ほんの少しだけ柔らかな土の匂いが混じったことに気づき、ふと足元へ視線を落とす。道端の乾いた植え込みの隅では、枯れ葉の隙間から名も知らない小さな緑が、確かな生命力を持って顔を出していた。それは夏の空想ではなく、冬の寒さを耐え抜いた現実の春の兆しだった。

季節はただ円を描いて同じ場所に戻ってくるわけではなく、螺旋階段のように少しずつ違う景色を見せながら巡っていくのかもしれない。だとしたら、私がこれから迎える季節は、あの日の記憶と決して同じではないのだ。立ち尽くし、過去を反芻していたこの時間もまた、次の一歩を踏み出すために必要な冬の期間だったのだろう。

頬を撫でる風はまだ少し冷たいが、差し込む光はこれほどまでに明るい。顔を上げ、私は早まる鼓動に合わせるように、先ほどよりも少しだけ歩幅を広げて歩き出した。

2/22/2026, 4:09:49 PM