みずくらげ

Open App


『0からの』

硝子のように澄んだ幼年の精神は、世界をまだ分解せず、ただ光を受けて七色に屈折させるだけでよかった。あの頃、私は創作という名の遊戯に飢えていた。紙片に走らせる拙い線も、意味をなさぬ物語も、すべてが疑いなく私から湧き出た泉であると信じていたのである。
しかし成長とは残酷な解剖である。やがて私は知る。自らの思考も感情も、身振りに至るまで、幾層にも重なった他者の影の上に築かれているという事実を。書こうとすれば既視感が立ち上り、思いついた比喩はどこかの詩人の亡霊の囁きに似ている。奇矯な着想さえ、世界のどこかで既に誰かが口にしているに違いない、と冷ややかな理性が告げる。その瞬間、私は筆を折る。自分の純粋を守るためと称して、創作を処刑台へと引き立てるのだ。

それは潔癖であると同時に、卑怯でもある。私は唯一でありたいと願いながら、唯一など存在しないという真理を盾にして戦いを回避する。名を成した作曲家や小説家、芸術家たちが羨ましいのは、彼らが無垢であったからではない。むしろ、無数の影響と類似を引き受けた上で、それでもなお「これは私のものだ」と言い切る傲慢さを持ち得たからであろう。世界が既に満ちていることを知りながら、なお一滴の血をそこに垂らす勇気。私はその勇気に嫉妬している。

何億という旋律、思想、美学が渦巻くこの地上において、完全なる零からの創造など、神話に過ぎない。すべては連なり、模倣し、裏切り、変形される。だがそれでも、私の胸の奥で脈打つ衝動だけは、他の誰にも代替できぬ鼓動であるはずだ。たとえその旋律が誰かの影を踏んでいようと、それを奏でる私の肉体は、私ひとりのものである。

にもかかわらず、私は己を裁く。何ものでもない身でありながら、世界の審級を勝手に内面化し、自らに死刑を宣告する。なんという傲慢。なんという自意識の肥大。私はまだ何も生み出していないのに、既に敗北者の風貌を整えている。

それでも願いだけは消えない。生み出したい。何かを、たとえそれが世界の巨大な反復の中のかすかな変奏に過ぎぬとしても。私は零からの創造を夢見るのではない。むしろ、無数の影響の屍の上に私という一片の証を刻みたいのだ。

それが叶わぬ幻想であったとしても、幻想に身を捧げることこそが、創作者の最初の誠実なのかもしれない。

2/21/2026, 2:08:15 PM