時刻は午後11時56分。まもなく、日付が変わる。そう、変わるはずなのだ。
俺はもう、この日を、同じ日付のカレンダーを、もう随分と長いこと見ていた。あり得ない話だと思うかもしれない。俺だって最初は、夢か何かだと思った。しかし、実際俺は今日という日に囚われていて、もう明日の日付を拝むことはないのだ。
しかし、今日に閉じ込められたからといって、案外なんの変化もなかった。俺がほんの少し行動を変えれば、その分出来事も変わっていく。不変なのは今日の予定や日程だけで、その中身は全く別のものになっている。だから、俺は別に、何も困ってはいなかった。日々に飽き飽きすることも、不変に気が狂うこともない。普通の人間が過ごしているような時間と、何ら変わりない日々を送っていた。
時計の針が進む。もうあと数秒で、本来なら日付が更新される。しかし、俺の世界は相変わらず、同じ日付をなぞるばかりだ。時計の針が天辺に回れば、日付が変わることはないまま時間だけがまたゼロからやり直しになるだけ。正直、カレンダーはもう無くてもいいものになっていた。
けれど、最近おかしなことが起こるのだ。きっと夢のせいなのだが、やけに眠りが浅い。何か、意識が別のものに吸われているような、そんな感覚を覚えるのだ。この世界は変わらないのに、俺の何かは変わっている。そんな不快な感覚が俺を蝕んでいた。寝て起きたら、体の節々が痛むことも少なくなくなった。ズキズキと、怪我でもしたように痛むのだ。
直感だった。根拠は何一つもない。なんとなく、終わりなのだと理解した。この、毎日繰り返していた日付が変わる。変わってしまう。知ってしまう。あの日の記憶を、思い出してしまう。
目が、覚めた。
起き上がったのは、色を失って冷たい光だけを反射する、真っ白な部屋。日付は、俺の知っているものからもう何ヶ月も経っていた。
俺はあの日、事故に遭った。俺以外に車に乗っていた友人達は即死だったそうだ。大学を卒業した、記念の旅行だった。
覚めてしまった夢は、もう二度と戻ってこない。俺は失ったあの日のことも、あれだけ繰り返した夢の中の日付も、目を開いた瞬間から、少しずつ少しずつ、霞むようにして分からなくなっていた。
テーマ:今日にさよなら
2/19/2026, 9:09:41 AM