とある恋人たちの日常。

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 目を覚ますとズキンッと重い痛みが頭に走る。
 くわんくわんして起き上がるのを諦めてベッドに落ちた。
 
 えーっとどんな状況?
 
 昨日、家に帰った記憶がなくて……。なんで家に帰っているんだろう。
 
 そんなことを考えていると、ドアが空いていい香りが漂ってきた。
 
「あ、目が覚めた?」
 
 優しい声で恋人が笑顔を向けてくれる。お盆にマグカップがあって、それがいい匂い。これは、おみそ汁?
 
「起きられそ?」
「アタマ重いですー」
「そりゃそうだ」
 
 彼は慣れた手つきで私の身体を起こし、背中に枕とクッションを入れる。
 この手際の良さ、さすがお医者さんです。
 
 私はクッションと枕に寄りかかると彼が持ってきたマグカップを渡してくれた。
 
「二日酔いにはしじみのおみそ汁だよ」
 
 手渡ししてくれたマグカップを口にしながら、ぼんやりと考える。
 そうだ。昨日は会社の人と忘年会で呑んだんだ。
 
 なんか気持ちよく呑んだ記憶はあるんだけれど。本当にどうやって帰ったのかなと……考えなくても彼の顔で分かる。
 
「迎えに来てくれた?」
「酔っ払って大変って連絡来たからね」
 
 私はちびちびとおみそ汁を飲みながら、彼から視線を逸らす。
 記憶がないんだから、まあまあヤラカシテイル可能性もあるわけで。
 
「ご、ごめんなさい」
「元々迎えに行く予定だったから構わないよ」
「え?」
 
 優しく頭に手を置いて撫でてくれた。
 
 あ。
 これ、覚えてる。
 
 私は彼をじっと見つめた。
 
「どうしたの?」
「昨日も、こうしてくれました?」
 
 彼は少し驚いてから、いつもの太陽のような笑顔ではなく、柔らかい笑顔で微笑んでくれる。
 
「さあ、どうだろうね」
 
 どこか嬉しそうな笑顔に胸が高鳴った。
 
 
 
おわり
 
 
 
五七三、ぬくもりの記憶
 
 
 

12/10/2025, 1:45:19 PM