傷付いた空想上の生き物の巣のような子供部屋。僕らにとって、唯一の安息地。外は、僕らを引き離そうと画策する恐ろしい大人たちがそこら中にいる怖い場所だ。この、痛いくらいに温もりに満ちた子供部屋でだけ、僕らは息ができる。
塗料で造られた偽物の青空と、そこに漂う綿でできた偽物の雲。部屋の床は柔らかな毛布やクッション、ぬいぐるみに覆われて、怪我をしそうな硬質な物はほとんど見えない。天井から、蜘蛛の糸のようにたっぷり垂らされたベロアのリボンは、僕たちの楽園に入り込もうとする邪魔な大人たちの首を引っ掛けて、そこからどかしてくれる。
ただ、唯一問題があるとするならば。ここは、光源がない。本来、作りものの青空の中央で輝いていたはずの電灯は、通電を止められたここではもう意味を成していない。せっかくの青空なのに、ずっとずっと夜空のように暗いままなのだ。
まぁでも、そんなのは大した問題ではない。僕がここにいて、そして彼がその隣にいればいい。ここは、そういう場所だ。僕と彼のためだけの、絶対に安全な子供部屋。社会に呑まれて汚れた大人たちは入れない、綺麗な空間。光源なんてなくたって、隣の彼の、眩い程の笑顔があれば十分だ。
ある朝のことだった。彼が、外を見に行くと言い出した。僕は何度も引き止めたけれど、彼の決意はあまりに固くて、ぬるま湯の中にずっと居た僕の言葉では、届かなかった。
彼は少しの食料と、1日分の着替えを持って、ここから出ていった。あまりに少ないその荷物に、彼はきっとすぐ帰ってくるのだと、そう僕は安心した。
実際、彼はすぐに帰ってきた。いつも通り、眩い程の笑顔でドアを開けて、そして。
これまで僕らを守ってきた、世間に汚れた大人を絞め殺すトラップのリボン。そう、世間に汚れたら、この狭い巣の中で、捕らえる対処である僕らだけを見るようになったら、眼中にも入らなくなるリボン。
それに、彼の首は捕まった。僕らはとっくに、大人だった。子供部屋が狭いのも、周りの目が痛いのも、全部、全部そのせいだった。
子供はいつまでも子供ではないし、無垢のままではいられない。いつか大きくなった時、汚れて、痛くて、壊れていく。
宙吊りになった彼の身体を、僕はぼんやり見つめていた。明かりのない天井は、彼には不釣り合いな暗さだ。けれど、彼がいるとなんとなく、明るく見える。
太陽は温かな光を放つけれど、近付きすぎると燃え尽きて死んでしまう。そのことをすっかり忘れた愚かな僕は、彼の隣へ、温もりを求めて、ふらり、ふらりと歩いていた。
その首をリボンが捉えるまで、そう時間は掛からないだろう。
テーマ:太陽のような
2/23/2026, 8:32:07 AM