「ほらほら有希、スマイル!」
とても綺麗で長い黒髪の君は誰にでも優しい。
悩んでいるような素振りを見せると、すかさずその合言葉を口にする。
君がそんなにも他人に優しく出来るのは、きっと人の痛みがわかるからなのだろう。
ある時やや無機質に感じるある一室の病室を訪ねると、そこには綺麗なハマユウの花が生けられていた。
窓際で静かに寝ているような君の中性的な美しい顔には、黒くて綺麗な髪がかかっている。
それは君が難病にかかって、絶対治すと決めてはじめた願掛けの一種だったと私だけが知っていた。
今日も、君が眠る場所へと私は出向く。
「こんな顔だとまた君にスマイル、って言われちゃうな」
私は今でも君の最後に絞り出したあの合言葉が耳から離れそうになかった。
海の波音が窓の外からでも聞こえてくる。
――私は今、君をなくして初めての夏をハマユウの香りとぎこちない笑顔で迎えることになったんだ。
#スマイル
2/8/2026, 10:59:02 AM