作家志望の高校生

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ぽつぽつと帰宅する者も出だした職員室、俺は一人頭を抱えていた。何人かの先生は気を使って声をかけてくれたりもしたが、大っぴらに相談するようなことでもないし曖昧に笑って誤魔化した。
新任の自分が担当するクラスは、基本皆とてもいい子だ。多少、自習中うるさいだとか授業中に内職していただとかで報告という名のお叱りは受けても、大きな問題行動は耳にしない。そんな中で、一人だけ俺の頭を悩ませる生徒がいたのだ。
彼は、別に不良なわけではない。成績はむしろいい方で、提出物の出はあまり良くないが、よく居る一般的な生徒だろう。けれど、とにかく心配になるのだ。進学という方向は辛うじて決まっているものの、行きたい学校も、分野も、大まかな将来の夢すら決まっていない。他の先生は普通だと笑うし、俺だって彼でさえなければそう思う。でも、彼はあまりに無気力すぎて気掛かりなのだ。
吹けば飛んでいきそうな彼は、未来への展望が何も見えない。そのせいなのか、彼自身に生きようという気概があまり見られないのだ。死ぬなら死んでいい、何かあったら死ねばいい。そんな危険な思想がちらついていて、ふわふわとした足取りが酷く不安定に思える。
だから、毎日毎日、俺は頭を悩ませていた。そんな中。ある知らせが入ってきて、俺は少しだけ、本当に少しだけ動揺した。
街の小さな絵画コンクールからの知らせだった。彼の作品が、そこで大賞を取ったという。いつの間に、なんて言葉が喉元まで出かけて飲み込んだ。その場では彼に賞状を手渡して少しの間褒めるだけに留めて、後日そのコンクールの展示会場へ作品を見に行った。
でかでかと飾られた彼の絵は、冷たい無機質さの中にどこか温かさを孕んでいて、素人目に見ても綺麗だった。何層にも塗り重ねられた絵の具の層をじっと見つめ、彼が少し見出したらしい未来を思う。
少しだけ未来へ歩き出したような彼に、俺は小さくガッツポーズをした。直接俺のせいではなくとも、彼がどこかで何かに触れて、それに光を見出してくれたことが堪らなく嬉しい。
彼の描いた未来への小さな光を眺めながら、俺は近付いてきたテストに向け、また生徒達と向き合おうと心に決めた。

テーマ:君が見た夢

12/17/2025, 7:16:31 AM