ー上書きー(誰よりも)
双子の妹は、いつも後ろについてきていた。
どんな事でも、必ず私に助けを求めてくる。
「おねーちゃん。これやって!」
生まれた時間なんて、数時間しか変わらないのに…。
それが少しウザったく、嬉しくもあった。
妹に変化があったのは、私たちが高校に上がった時だった。
妹は、いつの間にかクラスの中心にいた。
昔とはまるで違った。
私の後ろには、もう誰もいない。
「もう一人で、大丈夫みたいだね」
ある時私は、妹にそう言った。
そこには少し、嫌味が混じっていたように思う。
妹は一瞬、妙な顔をした。
褒められたのか、突き放されたのか、判断できないみたいな顔。
それから少し、泣きそうな顔になったのを、私は忘れられない。
妹はそれっきり、私に頼らなくなった。
宿題も、委員会も、部活も。
変わりに、
私を真似るようになった。
言い回し。
細かい癖。
字の筆跡。
「それ、私の真似?」
そう聞いた時、妹は笑った。
「だって、おねーちゃんのやり方が一番うまくいくんでしょ?」
その笑顔が、少しだけ、私より私らしく見えた。
―――――
それから妹は、髪型を私と揃えた。
ボブにしたのだ。
お母さんたちには
「お揃いで、もっとかわいい」
なんて言われたが、私は少し、嫌だった。
それからは、間違われることが増えた。
妹の友達に声をかけられることはしょっちゅう。
先生からも、
「妹さんに似てるね」
なんて言われてしまう。
その度に私は複雑な気分になった。
―――――
妹とお母さんは、二人きりで話すことが増えた。
私には内緒で。
「前は、私だったのに」
そう呟いて、ふと思った。
妹も、こんな感じだったのかなと。
―――――
「お姉ちゃん」
母が、私を呼んだ。
久しぶりの、懐かしい言葉に、私は振り返った。
「え?」
母は私を見て、奥に目をやった。
奥では妹がテレビを見ている。
「あらやだ、私ったら…。ごめんなさいね?最近、あの子の方が、お姉ちゃんみたいだから。“昔のあなた”みたい…」
私は理解した。
母は妹を呼ぶつもりで、「お姉ちゃん」と言ったのだと。
熱いものが、こみ上げてくる。
「あ、うん。大丈夫。気にしないで」
“昔のあなた”。
母の言葉が引っかかる。
それでも、特に突っ込まず、私は笑った。
母はそれにおかしそうな顔をして、こう言った。
「あなたたち、そっくりね。笑い方が。ふふっ。妹ちゃん“みたい”」
「え?」
今度は、言葉が漏れた。
母は不思議そうな顔をする。
「どうしたの?」
「…なんでもない」
あなたは私の、母親として…。
そう言葉にしてしまわないように、必死に飲み込んだ。
本当は今すぐにでもぶちまけてしまいたい。
でも、無垢な目をする母親に、何かを言うことなどできなかった。
―――――
「実は、昔“妹”を助けたことがあってね。」
廊下。
妹の声が聞こえて立ち止まった。
たしかに今、“妹”と、そう聞こえた気がする。
「“妹”が、プールで溺れそうになってるところに、私が飛び込んで助けたんだよね。その時は、死ぬかと思ったな」
妹がはにかむ。
その話は…私の。
妹の友達が言う。
「凄いね!“頼れるお姉ちゃん”なんだ!その、“妹”ちゃんとは話してる?」
話してないし、
そもそもその話は私の話で、
“お姉ちゃん”は私だし。
妹は、笑った。
「話してるよ。おねーちゃんとして」
妹の声が、耳の奥にこびりついていくようだ。
私の記憶なんかよりもずっと、妹の言葉のほうが正しい気がする。
―――――
こみ上げてきた吐き気に、急いでトイレに向かった。
「げほっ、ゴホッゴホッ」
便器の中に、異物が溜まっていく。
流れ出てくる吐瀉物は、今までの私の記憶のよう。
何度もえずいて、
吐き出した。
それでもずっと、喉の奥につっかえているようだった。
今まで言えなかった、言葉みたいに。
あれ?
私って、お姉ちゃんなんだっけ。
それとも、妹?
吐瀉物を流してから、口をすすごうと鏡の前に移動する。
そこには、いつもの私の顔。
でも、私じゃないみたいだった。
「私って……」
ぶくぶくと口をすすぐ。
何度も、
何度も。
なにもかも、受け入れられればいいと願った。
そして、それが私の当たり前になればいいとも。
トイレを出る。
トイレの前には、妹が立っていた。
妹は、しとやかに笑う。
しかしそこには、あふれ出す感情があった。
目が、怖い。
「大丈夫?」
久しぶりに話す。
なのに、久しぶりのような気がしない。
妹の目の中で、私の輪郭が、少しだけずれていた。
ねえ。
私は、誰よりも、
誰だったんだっけ。
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今日も書き切りました!誤字ないと良いんですが…。少し分かりにくかったですかね…?
おやすみなさい。21:15
2/16/2026, 12:15:10 PM