作家志望の高校生

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今日はクリスマス。学校もどこか浮ついた空気が漂っていて、誰も彼も恋人と甘いひとときを過ごしている。
そんな中、心底不機嫌そうに紙パックのココアを啜る男が一人。なんてナレーションを心の中で一人付けてみるが、一向に気は晴れない。目の前でイチャつく初々しいカップルが、腹立たしくて仕方ない。
「…………俺も恋人欲しいぃ〜……」
本当に、本当に切な願いだった。腹の奥底から漏れ出るような低い呻き声を一人で上げる俺を不審がって、そそくさと周辺に居たカップル共が捌けていく。ざまあみろ、と内心舌を出すが、同時にこんなんだから恋人の一人もできないんだろうな、と虚しくもなった。
「ね〜ぇ。まーた奇行してカップルに気味悪がられてんの?」
へらりと笑って背後から現れた男に、俺の機嫌は更に急降下する。女どころか男にさえモテる、選り取り見取り状態の幼馴染。美人な彼女を何人も作っては、一月ほどでもう隣には別の子を連れている。一人くらい寄越せと喚いた日が懐かしい。
「うるせー人類の敵が!裏切り者!バカ!アホ!クズ!」
「わぁ、幼稚〜。」
目の前の笑顔が憎たらしくてしょうがない。どうにか気を紛らわそうとココアを啜り、体育館前の石段に座り込んだままじとりと睨めつけるように彼を見上げた。
「……んだよ。俺をからかいにわざわざこんなとこ来たのかよ。」
不機嫌を隠しもせず言うと、彼は更に笑みを深めて何かを俺に差し出してきた。下を見ると、何やらやけに小洒落た蝋燭。
「……なにこれ。」
「キャンドル。クリスマスっぽいでしょ?」
何が悲しくて、男一人でこんな洒落たキャンドルを眺めなくてはならないのだ。なんてあまりにも哀れな文句が口をついて出そうになったが、ギリギリで飲み込む。
「しょうがないから、今年も一緒に居たげるよ。」
微塵も嬉しくなかったが、渋々彼の誘いに乗った。放課後、我が家にずかずかと乗り込んできた彼は、何も飾り付けなんてされていない、ごく普通のリビングのど真ん中でキャンドルに火を灯す。揺らめく火は確かに綺麗で、繊細な柄がぼんやり照らされて幻想的だ。だが、満面の笑みで隣に座る幼馴染のせいで、俺は何も楽しくない。
「…………来年は絶対彼女つくる……もうお前と過ごすクリスマスはごめんだ……」
「あは、それ去年も言ってた〜。」
目の前でチカチカと揺れるキャンドルの火を見つめながら、俺は涙を飲んで虚しいクリスマスを過ごしたのだった。

テーマ:揺れるキャンドル

12/24/2025, 6:40:51 AM