作家志望の高校生

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やけに格式張った燕尾服を着て、履き慣れない革靴がかつりと音を立てる。新しい就職先を、俺は呆然と見上げていた。
そこは、変わった造りの屋敷だった。母屋は広々としていて、一見普通の豪邸に見える。しかし、その母屋に繋がる、ぐるりと家を一周するような回廊が設けられているのだ。母屋の中の部屋は普通に内部の廊下で繋がっているし、わざわざ家の壁4面全てに大きな扉を設置してまで回廊を造る理由は無いはずだ。おまけに、回廊が母屋をぐるりと囲っているせいで、母屋にはあまり日が当たらなくなっている。
「……変わった造りですね。」
思わず、俺を案内してくれていた先輩執事にそう言ってしまった。先輩は朗らかな人で、快活そうに笑って答えてくれた。
「はは、やっぱり最初はそう思うよね。オレも最初はびっくりしたよ。」
それならどうして、と更に失言をしかけて、慌てて言葉を飲み込んだ。けれど、聞きたがるような目線までは隠せなかったらしい。目敏い先輩はその視線に気付いたのか、先ほどとはまた違う、穏やかな笑みを浮かべて続けた。
「この回廊はね、オレ達の雇い主……この家の主人の、粋なちょっとした遊び心なんだよ。」
先輩はそれだけ言って、回廊へ続く、南側の壁の大扉を思いっきり全開にした。シャンデリアの控えめな光が照らしていた薄暗いホールに、扉の向こうの回廊から柔らかな日が差し込む。
思わず、溜息が出てしまった。扉から回廊を覗き込むと、壁に取り付けられたステンドグラスがキラキラと光を通し、色とりどりの光を室内に差し込ませる。子供の頃想像していた万華鏡の中のような世界が、扉一つで簡単に広がったのだ。
「綺麗だろ?」
何故か少し得意げな先輩が言うのに、同意せざるを得なかった。回廊には、昼を少し過ぎたばかりの眩しい日差しが差し込んでいる。鮮やかな光に満ちた回廊は、これから会う俺の雇い主の性格をよく表しているような気がした。そして、俺の就職先が、生涯の勤め先になるだろうこともまた、予感させていた。

テーマ:光の回廊

12/23/2025, 7:02:47 AM