(心の片隅で)(二次創作)
ブランドンは物心ついた頃から、出会ったものを形にしなければ気が済まないところがあった。幼い頃は、絵を描いたり粘土を捏ねたり工作をしていたりしたが、成長するにつれ、彫刻に興味を持つようになった。芸術とは孤高のものだ。仲間も師も持たぬまま、ブランドンはただ、己の心の赴くままに、創作を重ねてきた。
それはこれからも、変わらないはずだった。
「…………」
ちらちらと、心の片隅で何かがうるさい。無視を決め込んでいたがもう限界だ。ブランドンは手に持っていた彫刻刀と木材を投げ出した。ああ、何と腹立たしいことだろう。
「やっほー、ブランドン、いる?」
更にその原因は、能天気な顔でこうしてアトリエにやってくる。
「……クレア」
「難しい顔してるじゃん、悩み事ならこのクレアちゃんが聞いてあげるよ?」
悩み事こそ、クレアの存在だった。この春にやってきた新米牧場主なのだが、何故かブランドンを気に入っており、三日に二回は会いに来る。お陰様で、常に彼女の存在がブランドンの意識に居座り、手が動かない。ありていに言えば、スランプだった。
「悩みとは、お前のことだ」
「おお?」
「お前がいっつもこうやって――」
くどくどと述べられた陳情を、クレアは素直に傾聴した。そして結論を下してから、彼女の動きはとても速かった。一日で必要な資材を集めきると増築をゴッツに依頼。ザッカ屋に赴きプリザーブドフラワーと青い羽根を買ってブランドンに渡す。やがて家が出来上がり、大きなベッドも届き、あれよあれよという間にブランドンは牧場の家に引っ越すことになった。
「……は?俺は、結婚したのか?お前と?」
「うん!」
クレアは嬉しそうだ。彼女曰く、寝食を共にすれば嫌でも顔を合わせるし、離れた時にわざわざ思い出さなくてもよくなるから、ブランドンの意識からは消えるはずとのこと。1ミリも理解できない解決策だが、結局は彼女の言う通りになったので、ブランドンは考えるのをやめた。
12/18/2025, 9:54:11 PM