美佐野

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(明日への光)(二次創作)

 ユウトは牧場主だ。夜明け前に起き、畑と動物小屋を回り、雑草を刈り、日が沈むころにはくたくたになっている。一方リックは養鶏場を任されていて、卵の管理や出荷の段取りに追われ、朝は早く、帰りは遅い。
 一緒に暮らしているのに、顔を合わせる時間は驚くほど少ない。
 朝はどちらかが先に出て、昼は別々、夕方は入れ違い。テーブルに残されたメモや温め直したスープが、今日も会えなかった証拠になる。
 不満は言わない。一緒になる前から判っていたことだった。むしろ大親友になったことで、お互いの敷地を分けていた柵にゲートを取り付け、近道ができるようになった。
 唯一の例外が、夜だった。
 どれだけ遅くなっても、どれだけ疲れていても、先に帰った方は起きて待つ。戸が静かに開く音がすると、リビングから小さく声をかける。
「おかえり」
「ただいま」
 それだけで胸の奥がほどける。
 灯りを落とした部屋で、二人は自然と引き寄せられる。言葉は少ない。今日何があったかを細かく話す余裕はない。ただ、腕を回して、相手の体温を確かめる。
 リックの胸に顔を埋めると、飼料と土と、少しだけ卵の匂いが混じったいつもの匂いがした。
 ユウトは目を閉じて、ゆっくり息をする。
(ああ、ちゃんと生きてる)
 この時間があるから明日も動けるのだ。少しだけ強く抱きしめればリックの腕に力がこもった。
「……今日も忙しかった?」
「リックこそ」
 ぽんぽん、と背中を叩かれて、思わず笑う。子どもみたいだと思うのに、嫌じゃない。会えない時間が長いほど、この短いぬくもりが大事になる。
 ユウトは胸の中で、そっと噛みしめた。
(この体温が明日への光になるんだな)
 やがて呼吸が揃い、眠りが近づく。
 腕の中の温かさを最後まで離さないまま、ユウトは静かに目を閉じた。

12/16/2025, 5:25:06 AM