『蝶よ花よ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
どこまでも僕を飛ばしておくれ。僕を巻き込んで、イカロスのように太陽に向かってくれたら。
あの綺麗な羽を持つマドンナは多分イカロスよりもはるかに小さい。ただ、内に秘めた野望は同じくらい大きいのだろう。
美しい蝶よ。この地平にひっついて枯れる運命の私を、どうか連れていっておくれ。この哀れな花弁を。
〈蝶よ花よ〉2023/8.9
No.16
彼女はまさに僕が憧れた"名家のお嬢様"だった。
さらさら揺れるブロンドの髪、ほんの少しだけタレ目がちのパウダーブルーの瞳、白く透き通るような肌。
顔にはいつも笑みを浮かべていた。
対して僕は微かに紫かかった黒髪に彼女からワントーン程落ちた色の碧眼。
顔にはいつも貼り付けられた笑みが浮かんでいる。
僕より彼女の方がよっぽどうちの家にふさわしい、生まれる場所が逆だったように思えた。
「無題」
あなたが離れて約半年
私の愛は眠れぬ夜を連れてくるほど黒ずんでいき、
いつでもあなたの顔と声と2度と戻らぬ愛を欲する
怪物となりました。
あなたのLINEの幸せそうなプロフィール画像も
私の心を癒す一部であり、私を縫い付けて
離れられない呪縛になりました。
言葉では「あなたが幸せなら」など
綺麗事を並べ続けますが私はあなたのように綺麗な心を持ち合わせていないのでとても息苦しくて、
この苦しさをあなたに共有させようとする障害です。
どうかまだあなたの幸せを願う綺麗な私のままで
あなたを見送りたい。
そしてあなたがまだ好きでいてくれた私の姿で
目の前から消え去りたい。
5人目にして初めての女の子。しかも年の離れた末っ子。
両親も4人の兄たちも、それはそれはもう大喜び。
蝶よ花よと可愛がられた女の子は、その立場に甘んじること無く教養を積み、才色兼備の素晴らしい女性へと成長した。
当然、世の男性陣がそんな彼女をみすみす放っておくわけもなく、いついかなる時にも引く手数多だった。
しかし、そこにいつだって立ちはだかったのは父親と4人の兄たちだった。 "娘にはもっと相応しい男がいる" と恋文を破り捨て、 "妹に手を出す輩は許さん" と逢瀬に来た者を追い返た。彼女に言い寄る男たちを悪い虫と言わんばかりの酷い態度で追い払い続けたのだ。
母だけは、娘の行く末を案じてくれていたが、それも父や兄たちの耳には届かなかった。いつしか、言い寄ってくる男は誰もいなくなってしまった。
両親も兄たちも鬼籍に入ってしまった今、私は本当に一人になってしまった。父も兄も、これで満足なのだろうか。あの頃、父や兄たちをきちんと説得出来ていたら、未来は変わっていたかもしれない。最近はこうして、詮ないことばかりを考えてしまう。
家の前を若人たちが "ここのお婆さん、ずっと独り身でご近所付き合いもほとんど無いんだって" と言いながら通り過ぎて行く。
「そうさね。箱入りなものでね。」と独りごちた。
―――箱入り婆
#36【蝶よ花よ】
ああ、可愛いあの子。
長い手足。
珠のような瞳。
絹織物のような肌。
どれもこれもが美しい。
わたしが手塩にかけて作った罠に、かかった子。
誰にも渡したくない。
そう、誰かに渡してしまうくらいなら。
誰かのもとへ飛び立ってしまうくらいなら――。
「わたしが食べてしまいましょう」
/『蝶よ花よ』8/8
彼の密なんて吸わせない。
彼女はとても静かで、しとやかで綺麗な人だった。
そんな彼女と仲の良いわたしは、彼女が褒められると自分のことのように嬉しく、鼻が高かった。
勉強もでき、みなの和を乱さず、一歩引いているまさに“淑女”。
彼女は、周囲から月のような人だと言われていた。
けれど、わたしはどうしても周囲のその反応にだけは肯くことが出来なかった。
なぜなら、わたしには彼女が太陽のように感じられていたからだ。
わたしが誰かと話している時。特に男子と話している時。
そういった時は、だいたい彼女が他の誰かといる時なのだが、そうしてわたしが他の誰かと――彼女以外といる時。彼女は見てくるのだ。
じぃっと。彼女が話しているその人の影からじぃっとわたしを見つめてくるのだ。
それはもうじりじりと真夏の太陽のように。
木陰の隙間から涼むことを許さない陽光のように。
その瞳に射抜かれるとわたしは、ジュッとやけどをしたような気になる。
(誰が月下美人だ)
そして密かに恨むのだ。彼女を静かな月のようだと言った人を。
嘘だ。彼女は月の仮面をかぶった獰猛な太陽そのものだ。
/8/6『太陽』
そんな彼女を嫌いになれない“わたし”も、星にはなれない。
蝶よ花よ
と
育てられていたなら
生意気で
高慢ちきな
人間になっていたかも
と
思ったりする
こんな私の事だから
でも
せめて
望まれて
生まれていたなら
少しは
自分
愛せていたのかな
って
時々
思うのよ
「蝶よ花よ」
花を待たせない蝶でありなさい
蝶を惹きつける花でありなさい
蝶よ花よ、今日も美しく
すべては綺麗だと思わないか?
人の顔以外こんなに綺麗なんだ
もっと綺麗な物を見るべきだ
蝶よ花よ夢を
なぜ見なくなった
見た方が幸せじゃないか
綺麗な物はこんなに広がっているのに
目に見える幸せを知っているじゃないか君は
蝶よ花よと愛でられているうちに、あなたを好きだと言えばよかった
そうすれば、きっと断れなかったでしょう?
『蝶よ花よ』
綺麗ね
本当に綺麗
儚い
本当に儚い
ずっとそこにいられるわけじゃない
ずっと同じ蝶でも
ずっと同じ花でもない
綺麗で儚い
蝶よ花よ
私は遊郭で生まれた。
名前は、蝶蘭
神は、私にこの世のものではない美貌と知識を与えた。
私は男共を相手にするがたいていの奴は銭が足りず労働者として働いている。
私はある時子供を身ごもってしまった。
それは名家の跡取り息子とのこどもだった。
だが仕事には変えられない、私は子供を下ろした。
子供が好きな私にはとてもつらいことだった。
子供は女の子だった、妹を思いだした。
妹の名前は花、私達は二人で一つだった。
花は私になければいけなくて私は花になければいけないものだったから。
花が咲き誇ろうとしたとき、枯れてしまった。
その事実を知ったとき心がへし折れた。
私よりも、美しくて、純粋で、すべてが美しくて、遊郭ナンバーワンになれるといわれ続けてきた。
遊郭の蝶と花だった。
だが、死んだから、私がナンバーワンになった。
あの子がとるべきだったものをとってしまった罪悪感で逃げ出しくなった。
それで、現世というなの場所を逃げ出した。
後日
蝶蘭は薬を飲んでしんでいた。
死んでもなお、美しかった。
妹は醜くい遺体だった。
心の美しさが死体にでると私は実感した。
貴方と私は「蝶」と「花」。
その場から動けない私を求めるように、貴方は何時もここに来る。
毎日毎日私の元へ来ては、私のミツを吸って帰って行く。
そんな貴方を、何時しか嫌いになってしまっていた。
何も与えられることのない私から、貴方は毎日吸い取って行く。
私には何もないのに、何も残らないのに。
前は好きだった貴方の笑顔が、今や憎くて仕方がない。
けれど、貴方はきっとそんなことは知らず、また私の元へやって来るのでしょう。
ねぇ。知ってる?私ね、もうすぐ枯れるのよ?
もうすぐ、貴方に会えなくなるのよ?
そう言ってしまえば楽なのに。何故か貴方を目の前にすると、言葉が出ないの。
言おうとすると、心が苦しくなるの。
嗚呼、どうして今気が付いてしまうの。
どうして、今の今まで憎たらしかった貴方に、会いたくなってしまうの。
嗚呼、これが「恋」ってものなのね。
これが、貴方が私に熱弁していたものなのね。
ごめんなさい。私、貴方が好きよ。でもきっと、言えぬままなのね。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
美しい「蝶」の貴方は、最後まで美しく生きて。
「お姉っちゃん! 見て見て、またママが買ってくれたの」
そう言って妹は、わたしが欲しいものを見せた。
「お姉ちゃん、買って貰えなくてかわいそ! やっぱりさ、ママの言う通り、"出来の悪い子"は与えられないんだから、お姉ちゃんも頑張ってね」
妹の精一杯の励みの言葉は、少しひねくれていて、母の思想を受け継いだものだと実感する。受け継ぐことができなかったわたしが淘汰されるのは当然のこと。
自分に思想が似ているものを好み、異なった価値観を持つものを排除する。妹だけを愛でて、わたしには形だけの世話をする。わたしを、可哀相だと、不当だと思う人間も在るだろう。ただ、わたしはもう愛でられることを嫌悪してしまうから、妹が不憫で不憫で仕方なくなる。
自分が受けた子育てを、そのまま我が子にする人がほとんどだと言う。母はきっと、区別される子育てを受けたのであろう。どちらの立場かは知る由もないが。
「お姉ちゃん? どうしてそんなに行動しないの? ママに睨まれちゃうよ。わたしママには笑ってほしいんだけど、お姉ちゃんはそう思わないの?」
親に無駄に甘やかされて育った人間が、大人になれる気がしないのは、わたしだけだろうか。程よく愛でられるのは非常に快いものではあるが、妹に対する母のそれは、過剰であるように感じてしまう。
それでも、わたしは母に愛でてほしいと偶に思ってしまうのだ。
#蝶よ花よ
蝶よ花よ
高校三年の夏は暑さで前も見えない。
空はカンカン照りで、わたしの黒髪を痛めつける。
オシャレでも出来たら、外に出てもいい気持ちになるかもしれない。自信のなさから服を着る勇気が無くなってきた。
"ネット恋愛なんて、だめだよね。会ったこともない人好きになっちゃった。彼に会えるわたしになれてないよ。"
不貞腐れ、萎むわたしを見て、負のオーラを嗅ぎつけた猫が、体を擦り寄せてきた。柔らかい肌触りと、ただただ無垢な愛を感じ、ひたすらに涙を零した。
今のわたしは、明日のわたしに期待をすることはできない。きっと変わらずわたしは今日の私のままなんだろう。いつかこの涙が、わたしに染み込んで綺麗になれたらいいと思う。蝶よ、来てくれてありがとう。
蝶よ花よ、そんなことは望まないから。
せめて少しの愛情だけでも欲しかった。
……まあお手本のような毒親との母子家庭だった俺は、あの女が逮捕されるまで口にするのも憚られる虐待をされていたんだけれど。
心の拠り所だった幼馴染みに助けられて、精神的にも回復したと思った矢先、アンタは俺達の輪の中にすんなりと入ってきて。
嗚呼、いや、それだけなら良かった。別にアンタのことは嫌いじゃなかったから。
でも。
クリスマスの日、何気なく作ったカップケーキを渡したとき、彼女は酷く喜んで。
そして誰よりも、何よりも酷いことを言った。
「ありがとう。……なんだか、サンタさんみたいだね」
自分は貧乏だったから、サンタなんて来たことない、と。
ふざけんな。
俺だって来たことねぇよ。
そこそこ金持ちの俺の家とは対照的に、彼女は貧乏な家系の生まれだった。
けれど、それでも。アンタは愛されてる。いくら生活が苦しくたって、家族からの愛を知ってる。
金持ちの家で育ったけれど、俺はそんなの知らないから。…だから。
それがどれ程幸せなことなのか、蝶よ花よと大事にされてきたアンタには分かんないんだろうな。
自虐気味に笑う彼女を、あくまでも少しだけ、憎しみの籠った目で睨み付けた。
「蝶よ花よ」
蝶よ、花よ、とは
あなたはまるで蝶や花のように美しい
と、
相手をチヤホヤするときの表現だが
蝶も花も 驚くほど寿命が短い。
それを知っていて使うのであれば
結局はバカにしているのだろう。
その道でのトップに立った人に対して
「いつまでも現状維持してください」
と声をかけるのなら
「象よ、亀よ」といったところか。
どちらも成体になってから長生きだ。
いやもう こっちにしても
結局はバカにしているのだろう。
「蝶よ花よ」
【蝶よ花よ】
「鳶が鷹を生んだと持て囃されて、蝶よ花よと育てられて期待されて、蛙の子は蛙だったって諦められて。おれはただ、ひとでいたかったよ」
自分の膝に顔をうずめて小さく丸まる夜雨の背中を、肩を、頭を、そろりそろりと何度も撫でる。隣に座ってぴたりとくっついて、ただひたすらにゆっくりと撫でる。
人の形を失いやすいこの人の、輪郭はここだと教えてあげたかった。あなたはひとだと、ひとのかたちをしているのだと、気づかせてあげたかった。
傷つきうずくまるこの人は、蝶でなくとも花でなくともただ、春歌の大事なひとだった。
自然な こと
なくなっている
人の 頭の中 から
蝶も 花も
強く吹かれながら
どこかにある
何かを
探して
探して
探して
…
風のなかの
軌跡
それを見て 微笑む
いつかの
人
短絡する
愚かな
私
蝶よ、
花よ。
陽を浴びて
香りの中
とまっては
また
飛んで
…
*「蝶よ花よ」、2023/08/09 加筆修正
蝶よ花よ
あなたは私の憧れで
一番の友だちで
ずっと傍にいたかった人です
招待状の『出席』に丸をした
あっけないものだった