『行かないで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
行かないで…
たったひと言
そう言えたなら
僕はきっと
君を失わなかった
手に入らなかった君は
いつまでも美しく
僕を惑わせる
いつかは消える感情だとしても
心はいつも穏やかではいられない
どうしようもなく…
君を想わずにはいられない
君じゃなきゃ…駄目なんだ
君じゃなきゃ…
「行かないで」
ふと思う。
愛犬も大切なあの人も。
いつか離れていってしまうのかと。
#48
【88,お題:行かないで】
俺には父親が居ない、母さんが言うには事故で亡くなったらしい
だから俺はずっと母さんと二人暮らしだ、ずっと...
幼い頃の記憶は全く無い、この場所で、俺と母さんの家で
決して裕福ではないが、毎日楽しく過ごしていた
俺にとって母さんは誰よりも頼れる人だった
女手一つで俺を育ててくれた、嬉しいことも悲しかったことも一番最初に話したのは母さんだった
嬉しそうに今日あった出来事を語る俺に、母さんは笑って「じゃあ今日は、歩の好きなカレーにしよっか」と言ってくれた
この先何があっても母さんは俺の味方であってくれる、そう思っていた
...あの日までは
「ん...今何時だ...」
いつもよりも早く目覚めた朝、枕元の時計を見ると朝の4時
起きるのにはちょっと早いが、朝ごはんの準備でも手伝おうと思い、のろのろと上体を起こす
異変があったのは、その直後だった
ピーンポーン......ドンドンドンッッ
まだ朝の4時だ、にもかかわらずドアの向こうが騒がしい
何度もインターホンの音が鳴った、また酔っぱらいが部屋を間違えたんだろうか?
「警察です!ドアを開けなさいっ!」
警察、その言葉に寝起き直後の甘い熱が一気に覚めるのを感じた
ドアを殴り付けるように叩く、警官の口調は厳しい
止めてください!母がそう叫ぶのが聞こえた
...ガチャン!
ドアノブの回る音、警官が入ってきたんだ
「!ッ母さんっっ!」
警官が発している威圧的な大声は怖かった、でもそれ以上に母が何かされるという恐怖の方が強く
その恐怖に突き動かされるように、叫びながら扉を開けた......しかし、俺は警官に飛びかかることはせず
目を見開いて彫像のように動きを止めた、目の前の光景が信じれなかった、否、信じることを脳が拒否していた
「...は......?な、んで...?」
そこでは、警官に手錠を掛けられた母が、連れていかれようとしていた
「まって...なんで母さんが!母さんはなにもしてない!」
「落ち着いて、少年!」
「なんで!何でだよ!やめろっ!どうして、母さんっっ!!」
母さんが連れていかれる、最愛の母が、唯一の血縁が
殆ど悲鳴に近い絶叫を上げ、母を連れていこうとした警官に掴みかかった、引きちぎらんばかりに力を込めて母から引きはなそうと必死になる
だが、子供の力では鍛えられた警官にはかなわない
俺は為す術なく引き剥がされた、母は
「ごめんね、歩」
泣きながらそう言って、そのまま連れていかれた
「母さん!母さんっ!嫌だ!行かないで」
警官に羽交い締めにされながらも必死で叫び手を伸ばす
「落ち着いて、大丈夫だから」そんな声も全く耳に入らない
千切れそうなほど伸ばした腕は虚しく空を掻くばかりで、母には届かなかった
そして扉が閉まり、母は見えなくなった
その後聞いた話だが、俺が母親だと思っていた人物は
実際には血縁関係の無い他人で、幼い頃スーパーで1人になった俺を誘拐し
自らを母親だと偽って、ここまで育てたらしい
動機は、自身の子供が事故で亡くなり、俺がその子供にそっくりだったことから衝動的に...ということらしい
俺の本当の親は、父母ともに仲も良く。俺が誘拐された時から12年間ずっと諦めず、俺のことを探していてくれたそうだ
「翔太!あぁ良かった...ごめんねぇ、あの時私が目を離したからッ」
”翔太”が自分の本当の名前であること、目の前で泣き崩れているのが自分の本当の母親であること
それらを理解するのに数秒かかった
「大丈夫だったか翔太?変なことされてないか?」
目に涙を浮かべて、良かった良かったと笑う俺の父親
その顔はどこか俺に似ていて、眼鏡をかけた優しそうなタレ目が俺のことを見つめていた
「良かった...翔太が無事で...ッ」
「帰ってきてくれて嬉しいよ...お帰り、翔太」
知らない名前で俺を呼ぶ、知らない顔の両親
普通の子供なら両親に飛び付き、泣きながら今までのことを語るんだろう
でも、今までの俺にとっての母親は間違いなくあの人で
あの人から貰った、愛情も思い出も間違いなく本物で
「翔太?...大丈夫?」
違うよ...俺は、俺の名前は...
「きっと疲れてるんだろう、今日は早く休もう、何か食べたいものはあるか?翔太」
「そうね、何でもいいのよ翔太、遠慮しないで」
「カツ丼とかどうだ翔太!」
「それは貴方が食べたいだけでしょ!」
俺の好きなもの...
『おれ、母さんのカレー大好き!おいしい!』
『嬉しいこと言ってくれるじゃない!母さん、カレー得意料理にしようかな~』
.........
「寿司もいいよなぁ...あ、でもこの時間だと混むか」
「......がいい...」
ぼそりと発音した俺の声に二人が反応した
なになに?何がいいの?と、嬉しそうに聞いてくる
「......カレー...がいい」
「カレーね!じゃあ材料買って一緒に作ろうか」
「......うん......」
本当の親との再開を喜べないのは親不孝ですか?
犯罪者だった、偽りの母親にまた会いたいと思ってしまうのはいけないことですか?
俺は...
「味はどう?翔太」
「...うん、おいしいよ」
久しぶりに食べた誰かの手作りカレー、俺の大好きな母さんのカレー
「...ッ...」
それは酷く、涙の味がした。
#行かないで
腕の中で、肉球をしゃぶしゃぶしながら喉を鳴らす愛猫。
何よりも幸せな時間。一生続けば良い。
しかし夫の気配がすると、私を踏切台にしてバシューンッッと飛び出て行ってしまう_| ̄|○
突然腕の中が軽くなる。なんだか肩口が寒くなる。頭を撫でていた手の所在がなくなる。
そして何より『淋しい(・_・、)』!!!
行かないで~(´Д`)
「……どうしたの?」
止める理由が無いから、無言で上着の裾を掴んだ。
別に、飲みに行きたきゃ行けばいい。
いつ、どこで、誰と何をどうしようが個人の自由だ。付き合いがあるのも理解している。ただ、ここ最近家を空けていたから家の中が少し物寂しいとか、隣にいなかったからベッドの中が少し寒く感じただけ。
特に気にするほどの事でもない。……ほんの些細なことだ。
だから、別に行ってもいい。そうしたところで、どうせ傷つくこともないのだから。
かと言って、生み出された心の波音は『行かないで』と確かに言っていた。素直に言えないのは昔からで、かと言って何もしないわけでもなく。勝手に体が動き、自ずと意思を伝えてしまっていた。
上着を掴んだそれはただの反射。だが、その行動は理由も言葉もない、精一杯の『行かないで』。
俺は今まで恋愛なんてしたことはない。女なんて皆、その場しのぎの道具でしかなかったからだ。派手に着飾り、濃ゆい化粧をし、きつい香水を纏い、己の欲望のまま男に媚びへつらっていた。そんな女達を俺は利用するだけ利用し、終わればまた新しいのに変える。それの繰り返しだった。
だがこの女は違った。派手に着飾ることもなく、媚びへつらうこともなく、誘惑の言葉にさえ聞く耳を持たなかった。その時俺は、初めて恋というものを知り、今まで付き合っていた女達とは関係を全て断ち、彼女に振り向いてもらおうと、あの手この手と必死になっていた。
だが彼女はするりと全てを交わし、一向に振り向いてはくれなかった。諦めたくない。失いたくない。行かないでくれ。消えないでくれ。俺の全てをかけて、お前を愛し守るから...
〚行かないで〛
行かないで
先に死ぬのは私じゃなきゃいや
大切な人を失った時の悲しみはもう二度と味わいたくない
『行かないで』2023.10.24
「行かないで」
他愛もないたったその一言を、こうも情念を込めて言えるのは自分の知る限り、彼だけだろう。
俺たちは五人組の演劇ユニットということもあり、スイッチプレイをよく行う。女性役も毎公演、誰かが演じている。自画自賛というわけではないが、皆の女性役のクオリティーは高いと思う。一番長身の彼の女性役も、その端正な顔でするからなかなか可愛らしい。
しかし、最年少の彼の女性役はとくにクオリティーは高い。
男性としては背は平均的、細身ながらよく筋トレをしている姿を見るので、身体付きはガッチリしているほう。声もやや低めだ。
そんな彼が女性役を演じると、これがなかなかどうして、色っぽいのだ。
元の役を演じながら、サブとして女性役を演じる。
その切り替えは大したものだと思うし、それが彼の表現力の高さなのだ。
「頼りにしてるわ。私のナイトさん」
おどけたようなセリフはチャーミングだ。そこに嫌味はなく、清楚さのなかにも少しの茶目っ気があり、可愛らしい一人の女性となる。
しかし、彼の真骨頂はやはり、重めの感情を抱いた女性役である。
立ち去ろうとする男の腕を引っ張って、ふっと息を詰める。男が振り返ってから、数秒溜めて、
「行かないで」
と未練がましく言う。
他の人なら寂しいという感情を乗せて発するそのセリフも、彼の手にかかれば、愛憎の入り混じるものとなるのだ。
アンドロイドと占い師
人は占い師に道筋を求め、行き先を尋ねる。
うつ向いて占いにやってきた客は、出ていく時にはほっとしたような…負担が和らいだ表情をしている。
人間はなぜ占いにすがるのか。機械である自分には、根本的な所が分からない。
「そうですね…」
彼女は嫌な顔一つせず、言葉を選びながら答えてくれた。
「なぜ自分は生きているのか。どうやって生きていけばいいか。要約するとだいたいこんな感じになりますね」
「重いな…」
「重いですね」
ぞっとして感想を述べると、彼女は拍子抜けするぐらい柔かな笑みを浮かべていた。
んなもん、自分で決めろよと思うのだが。
「宗教であったり、国であったり…生きるのに精一杯な時もあれば、悲しみや空しさに潰される時も多い。人は、すがるものが欲しいんです」
「人間は大変だな。オレにはわからん」
「そうですね。だから何のために生まれて、何のために生きるのかはっきりとしている貴方は、たまにちょっと…羨ましいですね」
「オレがか」
「はい」
「めでたいなそりゃ」
「そうかもしれません」
不思議な不思議な感覚だった。
いつか追い付くから。どうか置いていかないでそばにいて。祈ったのはどちらだったのだろう。
穏やかな午後がもう少し続きますように。
行かないで そうわざとらしく言って彼を止める
別れ際にいつもしているお決まりのくだり
重いふりをして彼を笑わせる
ふりのふりだって彼に気づかせないために私もすぐに笑う
自分で自分に腹話術 本当の気持ちを誰かに言わせる
飽きられないように声色と動きを毎回変えて言ってきた
だけど彼の笑った後の表情が不穏に感じる
頑張ってきたけどついに飽きられたのかもしれない
それでもどうしたらいいかわらなくて私はまた誰かになる
行かないで そうわざとらしく言われて止められる
別れ際にいつもやられるお決まりのくだり
重いふりをして僕を笑わせる
本当にしているのは重くない恋人のふりだとわかってる
彼女のすぐに笑った後の表情が不穏に感じてしまうから
その表情に触れられない自分の情けなさを隠すために笑う
だけど自分の笑った後の表情は隠しきれてないんだと思う
頑張ってみたけれどついにそれもバレてるのかもしれない
それでもどうしたらいいかわからなくて僕はまた笑う
-行かないで-
「最初、こちらの世界に来た時は戸惑ったっす」
寂しそうに笑ったアモンは、私の問いに答えず話し始めた。
何を話せばいいのか、言葉が出てこなくてただ黙ってアモンの言葉に耳を傾ける。
「こっちの世界は東の国の文化に似ていて、俺のいた世界とは違って文化も発展していてムカつくくらい平和な世の中でだと思ってたけど…守ってくれる人間がいるから、平和だったんすよね」
『…アモン…』
「テレビってやつで活躍を見た時に敵を捕まえて、皆から賞賛されている人間が、私生活は家事も出来なくて酷い有り様なんて、笑っちゃうっすよほんと…俺と同じ部屋に住む人より世話が焼けるっす」
アモンはゆっくりと私に近づき、目の前に立つと私の肩におでこを付ける。段々と声が震え始めるのを聞くとたまらず抱きしめた。
『アモン…私、アモンがいないとダメだよ…だから…』
行かないで、という前にアモンの指が私の唇に触れる。
涙を流しながら首を振ったアモンに、本当にこれは夢なのかと錯覚してしまった
どこにも行かないで、置いていかないでって思ってるよ。でも私たちは恋人同士じゃないからそんなこと言えない。側から見ればどう見ても恋人同士なのに、
「好き」
の言葉だけが重すぎる。伝えたら全部壊れちゃう気がする。そうやって次は言う、次は伝えるって思ってたけど結局言えなかった。伝えなかったらずっと一緒に居れるんじゃないかなって思ってた。バカだよね。
伝えなくても壊れちゃう関係なら、「好き」の2文字ぐらい投げつけてやればよかった。
ずっとずっと呼んでいた
ただその手を掴んでいたくて
いつの間にか隣が当たり前になっていた
今はそれさえ手放し難い
せめてほんの少しでもいい
どうか離れる事を躊躇ってくれないだろうか
[行かないで]
行かないで
置いて行かないで
一人にしないで
孤独にはもう耐えられない
あなたに会えたから
愛情を知った
優しさを知った
温もりを知った
行かないで
会いに行く
わたしの寿命が終わるときに
会いに行く
早朝に帰ってきたママはコンビニの袋を置いてすぐに家を出てしまった。いつもいつもいかないでと抱きついて呼び止めても、握った手を離されどこかへ行ってしまう。ネグレクトはまっすぐな子供の心を静かに裏切っている。それは最も涙ぐましい。だいすきな親だからこどもはままを嫌いになれない。まだ何も知らないから、素直に受け止める。その小さな世界で孤独と愛が並行してる。
そんな心がいっぱいあると思う
ひとの決意を翻させることは難しい。
正確には、烏滸がましい。
ひとは、決めきれていないから悩むし、相談する。
思案しているうちはいくらでも取り返しがつく。
ただ、ひと度決めてしまったものは、鋼の意志で取り組むべきであるし、それほどの意志を持たない状態は、まだ悩んでいるとも言える。
そこまでの決意を覆すには、意志を砕かねばならない。
そこまでの意志は、悩んだ時間と、そのひとの生来の熱意から成る。
つまり、そのひとのかけた時間と、そのひととなりを、
一度否定しなければならない。
否定は辛い。いつの日がその刃は自らに向く。
そんな言葉で、相手を傷付けねばならない。
だから、烏滸がましいと思うのだ。
そんなわけで、言うのは辛いし、いつの日か私の身にも
降りかかることは解っているが。
お願いだから、
君の命をそんなに容易く棄てないでくれないか。
お題「行かないで」
行かないで
お願いだから、もう何処へも行かないで…もう私の元から離れないで…だって、せっかく手の先に届いた私だけの一番星兼太陽の様な存在の貴方だから…でも、貴方が私の元から離れられないのも、私が貴方から離れられないのも、離れないのも、お互いがそれを知っている…だって、私達は、溺愛し過ぎてるし、何時だって、引き寄せられてるから…私達が離れたら、周りの人達が皆驚く程、私達は、溺愛し過ぎてるし、引き寄せられてる関係だから…この先も誰も、私達の愛を壊す事なんて出来ない…だって、私達の愛は、永遠だから。
あと4ヶ月くらいで旅立ち・巣立ちのとき。
気づけば、もうそんなとこまで来ていた。
季節は、春から夏、夏から秋へと移り変わって、今は秋から冬へと変わろうとしている。
思えば、あなたと初めて会ったのは去年の夏休み。
必死に自分の思いを、歌を届けようとする姿に惹かれて、気づけば今私はあなたの目の前にいる。
自分で選んで来たのに、毎回目の前にいるのが奇跡に思えてしまう。あなたといた日々はとても楽しくて、どのシーンも全て私にとって最高の思い出。今ではこの道を選んで、あなたという人に会う道を選んで良かったと、心の底から過去の自分に感謝している。
しかし、もうすぐあなたは旅立ってしまう。
自分の夢へに向けて。
心なしか、もうあなたの背中は少し離れたとこに見える気がする。きっと夢をずっと追いかけているからだよね。
私もある意味旅立ちをする。あなたが旅立つ前に。
この国を飛び出して、この狭いところを飛び出して、もっともっと広いとこに行くんだ。
「広い世界に旅立つ」という意味で言うなら同じ旅立つを私もあなたもするね。
ただ「広い世界」は私とあなたでは、旅立ちする場所と意味が違うけど。
まだあなたはそこに、私が、私たちがいる場所に残っていてほしい。出来ることなら、私が今いる場所を旅立つまで。
日に日に、「まだ行かないで」、「まだこのままで」、「時間が止まればいいのに」という思いが強くなる。その度に私は泣きそうになる。
これはある意味、決まった運命だ。この世界の、この国のルールによって、決まっていた運命。
それでも私は願い続けている。そんな願いはきっと叶わないのに。
わかってる。わかってる!
頭では理解してる。心は理解を拒む。だから、涙が溢れて止まらない。
今の私に出来ることは、、、
あなたがいる時間を大切にすること。あなたといれる時間を出来るだけ長く保つこと。
これぽっちしか出来ないなんて、なんて哀しいんだろ。なんて虚しいんだろ。
でもこれしか出来ないんだから。
今を、あなたといれる時間を精一杯楽しもう。噛み締めようよ。
行かないで。行かないで。行かないで……っ!
心の中の私はいつまでもそう言い続ける。叫び続ける。
でも、あなたの目の前にいる私は必死に平然を装う。笑顔を作る。とびっきり笑ってみる。あなたを泣かせたくないから。私のせいであなたが涙を流すところなんてみたくないから。涙を浮かべるあなたを旅立つ前にみたくないから。
今、あなたの前にいる私はちゃんと笑えてますか?
行かないで #9
お約束をして
そのお約束の日がだんだんと近づくにつれ
ドキドキしてくる。
嬉しいとかワクワクする
とかでなく、
不安で…
自分で決めて、申し込んで、
未来が、怖くてドキドキしてしまう。
過ぎ去ってしまえば行ってよかったって、なる。
行動して良かったって。
だから
恐いけど
不安だけど
行かないで後悔したくはない
だから行こう。
側に
「お前にしては、珍しいな。風邪をひいて寝込むなど。前に外套をくれてやったろう?あれはどうした?」
「着たよ……でも、まさか川に落ちるとは思わないでしょ……温かくなるどころか、一瞬にして冷たくなっちゃったよ……」
私は、風邪をひいた。理由は任務の帰りにうっかり川に落ちたから。さらに運の悪いことにその日に限ってヴァシリーから貰った外套を着ていた。一緒に濡れてしまったそれは部屋に干されている。
ヴァシリーは干された外套を一瞥した後、ため息を吐いて私の方へ振り返る。
「………しばらくは寝ていろ。任務の書類も、こちらで預かる」
「え、何で……」
「真面目なお前のことだ。寝ていれば良いのに、書類などがあれば目を通したりするだろう?」
「………」
「これは預かるぞ」
ヴァシリーはサイドチェストに置いていた書類を取ると、書類を持っていない方の手で私の頭を撫でる。本格的に熱が上がってきたのか、彼の手はいつもよりも冷たく感じた。
(……冷たくて、大きな手。安心するな……あ、お父さんの手に似ているかも……)
そう思った瞬間にじわりと目の前が滲む。見えなくなった視界の向こうでヴァシリーが驚いたように息を呑んだ。
「な……」
「……行かないで、何処にも。側にいて」
思わず口からそんな言葉が吐いて出た。頭を撫でるヴァシリーの手を碌に力の入らない右手で握る。
「置いて行かないで。良い子に、するから」
どうしようもなく寂しくなった。ぼうっとする頭の片隅で、何処か冷静な思考が「死んだ両親のことを思い出したから」と結論に至っているのに、私の口から溢れるのは小さな嗚咽と幼子のような願いだった。
「………」
しかし、ヴァシリーは何も言わない。私の頭を撫でるその手がとても優しくて、ボロボロと涙があふれる。やがてヴァシリーは毛布ごと私を膝の上で抱えた。
これまでに彼に抱えられることはあったけど、その中でも特に強い力で抱きしめられる。
「……今更、捨てるはずも無かろう。お前は俺の教え子だ。お前の気持ちを蔑ろに出来るものか」
「ほんとう?」
視線をあげれば、戸惑いを浮かべた青い瞳と合う。
「俺が今まで約束を破ったことは?」
「無い。……信じるよ、ヴァシリー」
「ああ。お前が起きるまでこうしてやる。だから、一度寝ろ」
言われるがまま目を閉じる。思ったよりも早く睡魔はやって来て、私の意識はゆっくりと溶けていった。
(……)
こいつの泣き顔を見て、少し驚いた。こんなことで泣くような娘で無いと知っていたからだ。
「……親、か」
こいつの言葉はまるで、捨てられる前の幼子のようだった。いつもは表情一つ変えずに人命を奪うようなこの娘は、実のところずっと家族の温もりを求めていたのかもしれん。
いつもなら捨て置くはずの考えだ。だが、いつになく俺は物思いに耽っていた。
「くだらん」
簡単なこと。俺がその居場所になれば良い。こいつが求めた家族の温もりを、俺が、与えてやれば良いだけのこと。
「ミル」
この娘の顔を見ていると落ち着くような、むず痒いような気分になる。この気持ちが何なのかは分からんが。
(……悪くはない)
起きたら、存分に世話をしてやることにした。この娘が望む全てを俺が与えてやる。
そうすれば、こいつも俺に必要されていると嫌でも分かるだろうからな。