『10年後の私から届いた手紙』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
未来から手紙が届いた
10年後の私から届いた手紙
何が書かれているのかしら?
「彼と結婚してはダメ」
赤黒いインクで書かれた手紙
私は急いで結婚をとりやめた
10年後の私から届いた手紙
バレンタイン
アルベッド・ラ=ファルマの村にて
かつて豊かだったアルベッド神の加護は、今や風のように薄れつつあった。
村は廃村寸前。家々は軋み、井戸は枯れ、夜になると誰も外を歩かなくなった。
そんな村で、ガリウスはただ一人、毎日のように洞窟へ向かっていた。
洞窟はアルベッド神の神気が宿るとされ、村人たちはそこに最後の望みを託していた。
■ いつもと違う朝
その日もガリウスは、昨日と同じように洞窟へ足を踏み入れた。
だが、空気が違った。
湿り気が増し、冷たさが骨に触れるように鋭い。
足音が、いつもより深く響く。
「……おかしいな」
そう呟いた瞬間、視界が揺れた。
気づけば、ガリウスは洞窟の深層に立っていた。
昨日は半日かけてようやく辿り着いた場所だ。
今日は、ほんの数歩歩いただけのはずなのに。
■ 消えた荷物
「……戻るか」
そう思って背負い袋に手を伸ばしたガリウスは、息を呑んだ。
荷物がない。
食料も、松明も、縄も、全部。
まるで最初から持っていなかったかのように。
「……冗談だろ」
洞窟の深層は、光も風も届かない。
ここで立ち止まれば、確実に死ぬ。
ガリウスは仕方なく、上へ戻るための通路を探し始めた。
■ 少しずつ、掘り返すように
通路は、昨日と違っていた。
岩が崩れ、道が塞がれ、まるで洞窟そのものが形を変えたようだ。
ガリウスは手で岩をどかし、足で砂を払い、少しずつ、少しずつ進んでいく。
暗闇の奥で、何かが呼吸しているような気配がした。
それは風ではなく、獣でもなく、もっと古く、もっと静かなもの。
アルベッド神――
いや、アルベッド・ラ=ファルマの残滓か。
ガリウスは振り返らず、ただ上を目指した。
---
アルベッド・ラ=ファルマの影の深層
ガリウスが崩れた通路を掘り返しながら進んでいたときだった。
暗闇の奥で、複数の足音が重なるような気配がした。
最初は風の音かと思った。
だが、次の瞬間、洞窟全体が震えるほどの唸り声が響いた。
■ 魔物の群れ
黒い影が、闇から溢れるように現れた。
目だけが光り、形は曖昧で、まるで洞窟の闇そのものが動き出したようだった。
ガリウスは反射的に身構えたが、武器も荷物もない。
逃げるしかなかった。
「くそっ……!」
通路を駆け上がろうとした瞬間、背後から一体が飛びかかってきた。
ガリウスは腕で受け止める形になり、そのまま地面に叩きつけられた。
■ 奪われたもの
痛みが走り、視界が白く弾けた。
何が起きたのか理解するより早く、魔物たちが後退していく気配だけが残った。
ガリウスは息を荒げながら起き上がろうとした。
だが、身体のバランスが取れない。
左腕が、ない。
そこにはただ、重さの消えた空白だけがあった。
「……っ、はぁ……はぁ……」
痛みはあった。
だがそれ以上に、生きているという実感がガリウスを動かした。
■ それでも進む
洞窟の奥から、まだ魔物たちの気配が漂ってくる。
立ち止まれば終わる。
ガリウスは片腕のまま、壁に身体を預けながら、上へ続く通路を必死に進んだ。
暗闇の中で、彼の呼吸だけが確かに響いていた。
---
深層の“部屋”
片腕を失ったガリウスは、壁に体を預けながら必死に通路を進んでいた。
呼吸は荒く、視界は揺れ、足元の岩がどれほど重いのかも分からないほど感覚が薄れていく。
「……まだ……上に……」
その声は自分のものとは思えないほど弱かった。
足がもつれ、膝が崩れ落ちる。
暗闇が視界を侵食し、意識が遠のきかけたその瞬間――
風が吹いた。
洞窟の深層ではありえない、柔らかい風だった。
■ 偶然か、導きか
ガリウスはその風に引かれるように、ふらつきながら前へ進んだ。
通路の先に、かすかな光が見える。
「……光……?」
手を伸ばすようにして進むと、急に足元が軽くなり、身体が前へ倒れ込んだ。
ドサッ、と鈍い音。
だが、そこは硬い岩ではなかった。
床は平らで、どこか人工的な感触があった。
ガリウスが顔を上げると、そこは洞窟の中とは思えないほど広い空間――
“部屋” と呼ぶしかない場所だった。
壁には古い紋様が刻まれ、中央には石造りの台座が置かれている。
台座の上には、淡い光を放つ球体。
その光が、ガリウスを包むように揺れていた。
■ 意識が落ちる直前
「……ここは……?」
答える者はいない。
だが、光はまるで呼吸するように脈打ち、ガリウスの方へと伸びる。
その光に触れた瞬間、ガリウスの身体から力が抜けた。
温かい。
痛みが遠のく。
眠りに落ちるような、深い安堵。
ガリウスはそのまま、静かに意識を手放した。
---
目覚めと再生
どれほど眠っていたのか分からない。
ガリウスは、まぶたの裏に残る淡い光の余韻とともに、ゆっくりと意識を取り戻した。
まず感じたのは、温かさだった。
深層の冷気とはまるで違う、柔らかく包み込むような温度。
次に、身体の軽さ。
痛みが……ない。
ガリウスは反射的に左腕へ視線を落とした。
そこに――
あるはずのない腕が、あった。
皮膚は滑らかで、傷跡ひとつない。
まるで生まれたばかりのように新しい。
「……なんでだ……?」
呟きは震えていた。
恐怖でも驚愕でもなく、理解を超えた現実に対する戸惑い。
そのときだった。
■ 声
「目が覚めたのですね、ガリウス」
澄んだ声が、部屋の奥から響いた。
ガリウスは驚いて顔を上げる。
そこに立っていたのは、白い衣をまとった女性だった。
髪は淡い光を帯び、瞳は深い湖のように静か。
この洞窟の闇とはまるで別の世界から来たような存在感。
彼女は微笑み、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「あなたはガリウス、ですよね?」
ガリウスは言葉を失ったまま、ただ頷くしかなかった。
女性は胸に手を当て、静かに名乗った。
「私は――アルベッド。
この地を見守る者です」
その名は、村で語り継がれてきた神の名。
だが、目の前の彼女は伝承よりもずっと人間らしく、そしてどこか寂しげだった。
ガリウスは息を呑む。
「……アルベッド……神、なのか……?」
女性は首を横に振り、微笑んだ。
「神と呼ばれることもありますが……今はただ、あなたを助けた者だと思ってください」
部屋の光が、彼女の周囲で揺れた。
まるで彼女自身が光を生んでいるかのように。
---
アルベッドの告げる使命
ガリウスは再生した腕を見つめたまま、言葉を失っていた。
その沈黙を破るように、アルベッドは静かに歩み寄り、彼の前で立ち止まった。
その瞳は深い湖のように揺らぎ、どこか悲しみを含んでいる。
「ガリウス。
あなたには――やってもらわなければならないことがあります」
その声は柔らかいのに、逃れられない重さを帯びていた。
ガリウスは息を呑む。
「……俺に、何を……?」
アルベッドはゆっくりと視線を上げ、天井の光を見つめた。
「魔王が、二年後に復活します。
この世界は、再び闇に呑まれるでしょう」
洞窟の空気が一瞬で冷えたように感じた。
ガリウスの背筋に、ぞくりとした感覚が走る。
アルベッドは続けた。
「その復活を止められるのは……
“選ばれた者”だけです」
彼女の視線が、まっすぐガリウスに向けられる。
「あなたです、ガリウス」
ガリウスは思わず後ずさった。
「俺が……? なんで……俺なんだよ……」
アルベッドは首を横に振る。
「理由は、あなた自身がこれから知ることになります。
ですが――時間は多くありません」
彼女は手をかざし、部屋の中央にある台座を示した。
そこには、まだ光を放つ球体が静かに浮かんでいる。
「これからあなたは鍛えなければなりません。
身体も、心も、そして“魂”も」
そして、決定的な言葉が告げられる。
「二年後、あなたは聖剣を抜きに行きなさい。
それが、魔王を討つ唯一の道です」
ガリウスは拳を握りしめた。
再生した腕が、確かにそこにある。
「……俺に、できるのか……?」
アルベッドは微笑んだ。
その微笑みは、どこか母のように優しかった。
「できます。
あなたは、選ばれたのですから」
部屋の光が、ガリウスの周囲で静かに揺れた。
---
試練の森
アルベッドの言葉が空気に溶けていく。
「二年後、聖剣を抜きに行きなさい」
その声が胸の奥に響いた瞬間――
視界が白く弾けた。
次にガリウスが気づいたとき、足元には柔らかな土の感触があった。
湿った風が頬を撫で、木々のざわめきが耳に届く。
「……森、だと……?」
ついさっきまで洞窟の深層にいたはずなのに。
アルベッドの姿も、光の部屋も、跡形もない。
ガリウスは周囲を見渡した。
深い森。
どこまでも続く木々。
そして――静かすぎる。
その静寂を破ったのは、低い唸り声だった。
■ 襲い来る影
茂みが揺れた。
ガリウスは反射的に身構える。
黒い影が三つ、四つ……いや、もっと。
森の奥から、獣とも人ともつかない魔物が姿を現した。
目だけがぎらつき、牙が光る。
洞窟で襲ってきた魔物とは違う種類だが、同じ“闇”をまとっている。
「……試練ってわけかよ……!」
ガリウスは拳を握る。
再生した腕が、確かに力を宿している。
だが武器はない。
逃げ場もない。
魔物たちが一斉に飛びかかってくる。
■ 反射的な一撃
ガリウスは地面を蹴り、横へ飛んだ。
爪が空を裂き、木の幹が抉れる。
「くそっ……!」
咄嗟に拳を振るう。
その瞬間、腕が淡く光った。
魔物の一体が吹き飛ぶ。
自分でも信じられないほどの力だった。
「……今の、俺が……?」
だが考える暇はない。
残りの魔物が包囲を狭めてくる。
ガリウスは息を整え、構えを取った。
「来いよ……!
ここで倒れるわけにはいかねぇんだ……!」
森の中に、魔物たちの咆哮が響き渡る。
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試練の森 ― 二ヶ月の鍛錬
魔物の群れを必死に退けたあと、ガリウスは気づいた。
この森はただの森ではない。
アルベッドが言っていた“鍛えよ”という言葉が、ここで現実になっている。
森は容赦なくガリウスを追い込んだ。
魔物は毎日のように現れ、休む暇もない。
食料も自分で探し、罠を仕掛け、火を起こし、眠る場所を確保する。
最初の一週間は生き延びるだけで精一杯だった。
だが二週間、三週間と経つにつれ、ガリウスの身体は変わっていく。
再生した腕は驚くほど強く、
魔物の攻撃を受けても折れない。
反射も鋭くなり、気配を読む力も増していく。
そして二ヶ月が過ぎた頃――
ガリウスは森の魔物たちを恐れなくなっていた。
「……これが、アルベッドの言ってた“鍛える”ってやつか」
森の奥で焚き火を見つめながら、ガリウスは呟いた。
その夜、突然、森の空気が変わった。
風が止み、音が消え、世界が静止したような感覚。
「……またか……?」
視界が白く染まる。
---
六ヶ月後 ― 帰還
ガリウスが目を開けたとき、そこは森ではなかった。
見覚えのある土の匂い。
崩れかけた家々。
静まり返った通り。
「……村……?」
ガリウスはゆっくりと立ち上がった。
身体は以前よりもずっと強く、軽い。
森での鍛錬が、確かに自分を変えていた。
だが、違和感があった。
太陽の位置、空気の冷たさ、草の伸び具合。
すべてが“時間が経っている”ことを示している。
「……俺、どれくらい……?」
そのとき、村の外れから声がした。
「ガリウス……? 本当に……ガリウスなのか……?」
振り返ると、村の老人が震える声で立っていた。
その顔には驚きと、信じられないという色が浮かんでいる。
「お前……半年も戻ってこなかったんだぞ……!」
ガリウスは息を呑んだ。
「半年……?」
森での二ヶ月の鍛錬。
だが現実では六ヶ月が過ぎていた。
アルベッドの試練は、時間さえも歪めていたのだ。
ガリウスは拳を握りしめた。
「……二年後、魔王が復活する。
その前に、俺は聖剣を抜きに行かなきゃならない」
村の風が静かに吹き抜けた。
---
二年後 ― 王都レグナス
二年の鍛錬を終えたガリウスは、ついに王都レグナスへと足を踏み入れた。
石畳の道、巨大な城壁、行き交う人々。
村とは比べものにならない活気がそこにはあった。
「……ここに、聖剣があるんだな」
胸の奥が静かに熱くなる。
アルベッドの言葉が、ずっと背中を押していた。
だが――王都は平和なだけの場所ではなかった。
■ イチャモンの影
ガリウスが城へ向かう大通りを歩いていると、突然、前に三人組の男たちが立ちふさがった。
革鎧を着ているが、どう見ても正規兵ではない。
腕っぷしに自信があるだけの、街のならず者だ。
「おいおい、見ろよ。
どこの田舎から来たんだ? そのボロいマント」
「王都に入るなら通行料ってもんがあるんだよ。知らねぇのか?」
「それとも……払えねぇのか?」
ニヤニヤと笑いながら、ガリウスの行く手を塞ぐ。
ガリウスはため息をついた。
「悪いが、急いでるんだ。どいてくれ」
だが男たちはさらに近づいてくる。
「急いでる? へぇ……じゃあ余計に払ってもらわねぇとな」
「お前みたいなガキが王都で何できるんだよ」
「まさか聖剣でも抜きに来たってか?」
その言葉に、ガリウスの足が止まった。
男たちはそれを“ビビった”と勘違いして、さらに調子に乗る。
「ははっ、図星かよ!
おい見ろよ、こいつ聖剣抜きに来たんだってよ!」
「無理無理、あれは選ばれた奴しか抜けねぇんだよ。
お前みたいな雑魚が触ったら腕が吹っ飛ぶぜ?」
ガリウスは静かに息を吐いた。
二年前なら、怒って殴りかかっていたかもしれない。
だが今は違う。
「……どけ。
本当に急いでるんだ」
その声は低く、静かで、揺るぎなかった。
男たちの笑いが止まる。
「……なんだ、その目……」
「おい……こいつ……ただの田舎者じゃねぇぞ……」
空気が変わった。
森での二ヶ月、そして二年の鍛錬が、ガリウスの雰囲気を完全に変えていた。
だが――ならず者の中の一人が、最後の悪あがきをする。
「……チッ、調子乗ってんじゃねぇぞ!」
男がガリウスの胸ぐらを掴もうと手を伸ばした瞬間
ガリウスの手が、その手首を軽く掴んだ。
「……っ!? な、なんだこの力……!」
ガリウスは力を入れていない。
それでも男は膝をつき、顔を歪める。
「言ったはずだ。
どけ」
その一言で、三人は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
王都の人々が?
「聖剣の間に向かってるぞ……」
ガリウスは振り返らず、まっすぐ城へと歩き出した。
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聖剣の間 ― 運命の場所
ならず者たちを追い払ったガリウスは、王城の奥へと進んでいった。
衛兵たちは最初こそ警戒したが、ガリウスの目を見てすぐに道を開けた。
その目には、迷いがなかった。
長い廊下を抜け、巨大な扉の前に立つ。
扉には古代文字が刻まれ、中央には光の紋章が浮かんでいる。
衛兵が静かに告げた。
「ここが……聖剣の間です。
選ばれし者しか入れません」
ガリウスが一歩踏み出すと、扉はまるで彼を待っていたかのように、ゆっくりと開いた。
中は静寂に包まれていた。
高い天井、白い石の床、そして――
■ 聖剣はそこにあった
部屋の中央。
光の柱の中に、一本の剣が突き立っていた。
柄は白銀、刃は淡く輝き、触れてもいないのに“鼓動”のようなものが伝わってくる。
ガリウスは息を呑んだ。
「……これが……聖剣……」
二年前、アルベッドが言った言葉が蘇る。
“二年後、あなたは聖剣を抜きに行きなさい”
その“時”が、今だった。
ガリウスはゆっくりと剣へ歩み寄る。
足音が静かに響き、光が彼を包む。
手を伸ばす。
柄に触れた瞬間――
部屋全体が震えた。
光が強くなり、風が巻き起こり、まるで剣が彼を試すように押し返してくる。
「……っ……!」
だがガリウスは踏みとどまった。
森での鍛錬、村での時間、アルベッドの言葉。
すべてが背中を押している。
「俺は……この剣を抜くために……ここまで来たんだ……!」
力を込めた瞬間――
光が爆ぜた。
---
聖剣、そしてその正体
光が爆ぜ、ガリウスの視界が白く染まった。
手に伝わる重みが変わる。
まるで剣そのものが“目覚めた”ような感覚。
ガリウスはゆっくりと目を開けた。
そこには――
確かに剣があった。
だが、さっきまでの清らかな光は消え、刃は黒く染まり、赤い紋様が脈打っている。
「……これ……聖剣じゃ……ない……?」
剣は低く唸るように震え、まるでガリウスの手に吸い付くように馴染んでくる。
その瞬間、頭の中に声が響いた。
『――我を抜いたか、人の子よ』
ガリウスは息を呑む。
「……誰だ……?」
『我は“魔剣ヴァルゼル”。
かつて聖剣と呼ばれ、今は闇を宿す剣』
ガリウスの背筋に冷たいものが走る。
「聖剣……じゃない……?
じゃあ、アルベッドは……」
そのとき、部屋の空気が揺れた。
■ アルベッドの姿
光が集まり、ガリウスの前にアルベッドが現れた。
以前と同じ白い衣、同じ静かな瞳。
だが、その表情はどこか苦しげだった。
「……ガリウス。
その剣は、かつて聖剣でした。
しかし今は――魔王の力に侵され、魔剣となっています」
ガリウスは剣を見下ろす。
「じゃあ……俺は間違った剣を抜いたのか……?」
アルベッドは首を横に振った。
「いいえ。
あなたが抜いたからこそ、その剣は“まだ戻れる”のです」
魔剣が低く笑うように震えた。
『人の子よ。
我を浄化できるかどうか……試すがいい』
ガリウスは剣を握りしめた。
重い。
だが、不思議と嫌な感覚ではない。
「……これが……俺の運命ってわけか」
アルベッドは静かに頷いた。
「魔王を倒すには、その魔剣が必要です。
聖剣では届かない“闇”があるのです」
ガリウスは深く息を吸い、剣を構えた。
「なら……やるしかねぇだろ」
魔剣が赤く脈打つ。
『面白い……ならば我を使いこなしてみせよ、ガリウス』
王都の空気が震えた。
---
魔剣ヴァルゼルの挑戦
ガリウスの手の中で、黒い刃が低く唸った。
赤い紋様が脈打ち、まるで生き物のように震えている。
『……ガリウスよ。
我を抜いたことは認めよう。
だが――それだけでは不十分だ』
ガリウスは眉をひそめた。
「どういう意味だ?」
魔剣は笑うように震えた。
『我を扱う資格があるかどうか……
“真剣勝負”で確かめさせてもらう』
その瞬間、聖剣の間の空気が一変した。
床に刻まれた紋章が赤く光り、部屋全体が闇に包まれていく。
ガリウスは思わず剣を構えた。
「……俺と、お前が戦うってことか」
『そうだ。
我を振るう者は、我より強くなければならぬ。
さもなくば――飲み込まれるだけだ』
闇の中から、魔剣の“影”が形を成していく。
それはガリウスと同じ姿をしていた。
だが、目は赤く光り、手には黒い剣。
『さあ、来い。
我を使いこなす覚悟があるのなら――示してみせよ』
ガリウスは深く息を吸った。
森での鍛錬、村での時間、アルベッドの言葉。
すべてがこの瞬間に繋がっている。
「……いいだろう。
お前が望むなら――受けて立つ」
影のガリウスが、音もなく剣を振り上げた。
闇の中で、二つの刃がぶつかり合う。
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ガリウス vs 魔剣の影 ― 真剣勝負
闇が渦巻き、聖剣の間は完全に別世界へと変貌した。
床は黒い霧に覆われ、天井は見えず、ただ赤い光だけが脈打つ。
その中心に、ガリウスと“影のガリウス”が向かい合っていた。
影はガリウスと同じ姿。
だが、目は血のように赤く、手に握る黒剣は禍々しい光を放っている。
『始めるぞ、人の子』
影が一歩踏み出した瞬間、空気が裂けた。
■ 一撃目 ― 速すぎる斬撃
影の剣が、音もなく横薙ぎに振るわれる。
ガリウスは反射的に後ろへ跳ぶ。
「っ……速い!」
刃が通った軌跡が、闇を裂いて赤い線を残す。
もし避けるのが一瞬遅れていたら、身体が真っ二つだった。
影は追撃を止めない。
間合いを詰め、連撃を叩き込んでくる。
ガリウスは腕で受け、足で弾き、紙一重でかわす。
金属のぶつかる音はない。
影の剣は“音を殺す”ように振るわれている。
「……これが……魔剣の力……!」
■ 二撃目 ― 闇の突き
影が低く構えた。
次の瞬間、黒い残像を引きながら一直線に突っ込んでくる。
ガリウスは剣を横に構え、受け止めようとした。
だが――
「重っ……!」
影の突きは、森で戦った魔物の何倍もの重さ。
腕が痺れ、足が床にめり込む。
影が囁く。
『その程度か……?
我を扱うには、まだ足りぬ』
ガリウスは歯を食いしばり、力を込めて押し返した。
「まだだ……!」
■ 三撃目 ― 反撃の一閃
影が距離を取った瞬間、ガリウスは踏み込んだ。
床を蹴る音が闇に響く。
「はああああっ!」
ガリウスの剣が、影の胴を斜めに斬り裂く――はずだった。
だが影は霧のように形を崩し、背後に回り込む。
『甘い』
黒い刃が振り下ろされる。
ガリウスは咄嗟に転がり、床を滑るように避けた。
刃が床に触れた瞬間、黒い亀裂が走り、闇が噴き出す。
「……避けなきゃ即死だな……!」
■ 四撃目 ― 心を試す一撃
影がゆっくりと歩み寄ってくる。
その動きは静かで、しかし逃げ場を奪うように重い。
『ガリウス。
お前は何のために戦う?』
ガリウスは息を整えながら答える。
「魔王を倒すためだ……
村を……世界を守るためだ!」
影は首を横に振る。
『違う。
それだけでは我は従わぬ』
影の剣が赤く光る。
『“自分のため”に戦え。
それができぬ者に、我は扱えぬ』
ガリウスの胸に、森での孤独な鍛錬、村の人々の顔、アルベッドの言葉がよぎる。
そして――
「……俺は……
俺自身が、生きたいから戦うんだ!」
その瞬間、ガリウスの剣が白く輝いた。
影が初めて動きを止める。
『……それでいい。
来い、ガリウス』
■ 最終撃 ― 決着
二人は同時に踏み込んだ。
黒と白の光がぶつかり合い、闇の空間が震える。
ガリウスの叫びと、影の咆哮が重なり――
刃が交差した。
光が爆ぜ、闇が裂け、影の身体がゆっくりと崩れていく。
『……見事だ……ガリウス……』
影は霧となり、魔剣へと吸い込まれた。
闇が晴れ、聖剣の間が元の姿を取り戻す。
ガリウスの手の中で、魔剣ヴァルゼルが静かに光った。
『これより我は、お前の剣だ』
ガリウスは深く息を吐いた。
「……これで、魔王と戦える……!」
---
王都の門前 ― 不意の呼び止め
魔剣ヴァルゼルとの真剣勝負を終え、正式にその力を手にしたガリウスは、王都レグナスの巨大な門へと向かっていた。
門の外には広大な草原が広がり、遠くには山脈が霞んで見える。
魔王との決戦に向けて、ここから本当の旅が始まる。
ガリウスは深く息を吸い、門をくぐろうとした。
そのとき――
「ちょっと待ってください!」
澄んだ声が背中に届いた。
ガリウスは振り返る。
そこには、フード付きの白いローブをまとった少女が立っていた。
年はガリウスより少し下に見える。
手には杖、腰には小さな薬袋。
どこか緊張したように、でも勇気を振り絞っている目。
「あなた……ガリウスさんですよね?」
ガリウスは眉をひそめた。
「そうだが……誰だ?」
少女は胸に手を当て、深く頭を下げた。
「私は――リュミナ。
王都の教会でヒーラーをしています」
ガリウスは少し驚いた。
ヒーラーが自分に何の用だというのか。
リュミナは息を整え、真剣な表情で続けた。
「あなたが……魔剣を抜いたと聞きました。
そして……魔王を倒しに行くつもりだと」
ガリウスは無言で頷く。
リュミナは一歩近づき、まっすぐガリウスを見つめた。
「私を……連れて行ってください」
ガリウスは思わず目を見開いた。
「……は? なんでだよ」
リュミナは震える声で、それでもはっきりと言った。
「魔王が復活すれば……世界中の人が傷つきます。
私は……誰かが傷つくのを、もう見たくないんです」
そして、少しだけ視線を落とす。
「それに……あなた一人じゃ、回復も治癒もできないでしょう?
魔剣を持つあなたには……きっと、私の力が必要になります」
ガリウスはしばらく黙っていた。
魔剣ヴァルゼルが低く囁く。
『悪くない選択だぞ、人の子。
ヒーラーは戦いにおいて最も重要な存在だ』
ガリウスはため息をつき、肩をすくめた。
「……好きにしろ。
ただし、危険は覚悟しとけよ」
リュミナの顔がぱっと明るくなる。
「はいっ! 覚悟はできています!」
こうして――
ガリウスと魔剣ヴァルゼル、そしてヒーラーのリュミナ。
三人の旅が始まった。
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お題「10年後の私から届いた手紙」
未来を変えなくていいよ。
ちゃんと良くなってるから。
10年後の私から届いた手紙にはこう書いてあった。
「私は今の話をしている。」
『ハッピーエンドのその先に』
めでたしめでたしと 茶の間が沸いて その後は気持ちの良い欠伸が待っている そして人々は床に就く
大団円の余韻を感じ 華やかな夢を見る 朝が来れば
生活が始まる トーストを焦がしてしまう 小さな不運 使われなかったバターがテーブルを温めている
人々は慌ただしく出かける 似ているようで似ていない毎日を繰り返し 次のハッピーエンドに飛びついて
また繰り返す 繰り返す
明日のことすらわからぬ我が身に、
未来を語ることなど出来ない。
ただ、過去の私に対してはいくらでも言える。
君の熱意や悩みが今の私を形作るのだから、
どうして君を否定できようか。
自由闊達と傍若無人の間で、藻掻き抜くが良い。
お題「10年後の私から届いた手紙」
10年後の私から届いた手紙
「何も心配しなくて良いからね。大丈夫、大丈夫」(希望)
10年後の私から届いた手紙
お久しぶりです。なんでこう、私は継続的に動けないのかな。
「10年後の私から届いた手紙」。難しいね。
10年後の私は何をしているだろうか。何度も考えたテーマではあるけど、答えを出すのはなかなか難しい。そんな「相手」から届く手紙など、想像できるはずもない。
ならば、今の私が「10年後の私」だとすれば、まだイメージしやすいだろうか。
10年前は(年齢バレるけど)まだ中学生だ。
そういえば中学の頃は「大人になった私へ」と題してしばしば日記や手紙を書いていた。せっかくなら読み返しながら返信を書きたいものだが、残念ながら今手元にない。今度実家に戻ったら探し出すとしよう。
さて、10年前の私に何か伝えられるとしたら、何を伝えたいだろうか。
一つ伝えるべきは、「あまり悟るなよ」ということかもしれない。
例えば、当時の私は絵を描くのが好きだった。
でも、それを仕事にするのが難しいこと、仮に仕事にできても純粋に楽しめないことを理解していた。適職診断で「クリエイティブなことは向いていない」と言われたこともあり、好きを仕事にすることは早々に諦めた。
別に間違っているとは思わない。でも、それに囚われる必要もないと、今では思う。
好きな絵だけを描いて生活するのは大変でも、絵の何が好きかを深掘れば、「好き」と仕事を繋げることは可能だ。というか、俗に言う就活がそういうものだ。10代半ばですべて諦めることはない。
「クリエイティブなことは向いていない」と言われたことには、10年後の私は納得いっていない。その根拠は「論理的な人だから」だった。納得いかない。
イラストであれば計算された美しい構図を生み出し、物語であれば展開を綺麗に組み立てる。仕事にするならば顧客の要望と新規性をパズルのように組み合わせる。
これらはあくまで一例だけど、なぁ、論理性がクリエイティビティに活かせないと、なぜ思った?
爆発的で情熱的なものを生み出すのは苦手かもしれない。少なくとも私は。でもそういうものばかりが「クリエイティブ」じゃないよね。
クリエイティブに向いていない人なんていない。「やりたい」と思ったらそれが適性だよ。
少し熱くなってしまった。まぁ、「可能性を狭めるな。広げろ。選択肢を絞るのは未来の自分がやることだから」ということです。
もしあなたが10年前の私と同じ状況にいるなら、あなたに向けてこれを届けます。10年後のパラレルワールドの「あなた」から手紙が届いたと思ってほしい。
楽しいことばかりじゃないし苦労はそれなりにしているけど、見ての通り創作活動にも勤しみつつ、何とかやってるよ。これからもっと、純粋な「やりたいこと」に向けてリスタートしようと思ってるよ。10年前の私へ。
こんにちは。
十年後の私へ手紙が届くのはびっくりしますか?十年後には過去の自分に手紙を書くことができるんですよ〜。私、今警察官やっています。警察学校も大変だったけど、今なら戻りたいなって思うぐらい大変ですけど子どもたちが忘れ物届けに来てくれたり、挨拶されたりしてすごく幸せな職についたな〜って思います。
今、すごく大変な状況だと思いますが、自分の夢を忘れず人生楽しんで下さい。
十年前の私は何事にも全力でやっているところが大きな取り柄です。自分に自信をもって日々過ごして下さい。私からは以上です。
さようなら
第十九話 その妃、消ゆ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「……もしかして、ここは天国ですか」
「残念ね。まだ死んでなくて」
突風が吹き込んだ所までは、辛うじて覚えている。けれど、瞬きをした次の瞬間には、廃離宮へと戻っていた。恐らくはこれも、友人が置いていった代物なのだろう。
「取り敢えず下見は済んだことだし、今日はここで解散にしましょう」
あー疲れた疲れたと、湯浴みに行こうとするその人の背中を、呆然と眺めていた。
毒の後遺症か、頭や体が上手く動かない。
「……何よ。まさか、今すぐ褒美が欲しいとか言うんじゃないでしょうね」
「どうして、何でも知っているんですか」
「あんた、それが褒美でいいわけ? もっと他にあるでしょう」
「いい子で待てなかった僕には、そもそも受け取る資格はありません」
それに、褒美ならもう……貰っている。
先程まで確かに繋がっていた手元に視線を落としていると、目の前からちいさなため息が落ちた。
顔を上げると、長椅子に座る主人が隣をとんとんと叩いている。たったそれだけのことなのに、免疫のない心臓が無駄に期待しようとする。
「“予想通り”いい子で待ってたんだもの。約束は、ちゃんと果たさないとね」
逸る鼓動を抑えながら、一人分の隙間を空けて遠慮がちに座る。そんなものは「大きな声で話したくないのよ」と言う、面倒臭がりな妃にあっという間に詰められたが。
「それで? 何が知りたいって?」
「ど、どうしてご存知だったのかなと」
「麻痺はそのうち消えると思うわよ? あの香は元々治療用だから、よっぽどのことがない限り、副作用もないし後遺症も残らないはず」
「……そのようなことを、どうして貴女が……」
以前、彼女は何も言わなかった。
全部がわかっていたらこんな場所にはいないと、ただ濁すだけで。
それだけじゃない。
あの後……帝と姿を消してから、城の中で一体何があったのか。
「私が、回帰した人間だから」
「……え?」
「私が未来人だから」
「み、未来人?」
「そうでないなら、十年後の私から届いた手紙で教えてもらっているから」
「……冗談、ですよね」
彼女はただ微笑んだ。
さあね? と笑いながら。とても楽しそうに。
やっぱり教えてくれるわけではなかった。恐らく“いい子”の基準値を超えたから。
まさか、たったこれだけのことでこんなにも落胆するとは思わなかったが。
「そんな残念そうな顔しなくても、そのうち嫌ってほどわかるわよ」
「……また冗談ですか」
「あんたが私の側から離れたいなら勝手にどうぞ」
「……それなら、もう少し待つことにしましょうか」
「生意気ね」
「いえいえー。貴女様には到底勝てませんよー」
そうして笑い合ってから、互いの情報を整理するため、一度解散をすることに。
許可を貰い、麻痺が消えるまで休んでいると、麻酔としての効果があらわれたのか、いつの間にか眠ってしまっていた。
「……ん。じゅふぁさま……?」
ゆるりと目蓋を持ち上げる。
世界はすっかり夜の帷を下ろし、体には毛布が掛けられていた。やさしさに、体も心もあたたかくなる。
「……ジュファ様?」
けれど、この時ほど、彼女の側を離れたことを恨んだことはなかった。
〈シバシ旅ニ出ル
良イ子デ待ツベシ〉
主人は、それを最後に消えてしまったから。
#10年後の私から届いた手紙/和風ファンタジー/気まぐれ更新
出せない手紙は
届かない
「10年先の私から届いた手紙」
お題 10年後の私から届いた手紙
郵便受けに不思議な手紙が入っていた。差出人は「10年後の私」と書かれている。
不審に思ってそのままゴミ箱に入れようとしたら、どこからか声が聞こえた。
「捨てないで。読んでほしい」
声の主を探したが、見当たらなかった。
まるで切迫した声で訴えているようだった。怪訝に思ったが読まなければならない気がして封を開けてみた。
私の書く筆跡と同じだ。本当にこの手紙は私が書いたのだろうか?10年後の私と書いてあるし、どういうことなのだろうか?とにかく読んでみる。
拝啓10年前の私へ
今から書く内容は、あなたにはピンとこないでしょうね。私はあなたの未来になにが起きたか知っている、10年後の私だからです。
これからあなたに起きる出来事を書ける範囲内で書いて伝えたいと思います。
これからあなたに起きる出来事は、苦難に満ちています。つらい出来事の中であなたは生きていくのもつらくなるかもしれません。
でもけして死なないでください。
もう少ししたらあなたを支えてくれる大切な人と出会えます。
だから、頑張って生きていて。支えてくれる大切な人と出会えるまで。
かしこ 10年後の私より
意味不明な内容の手紙を読み終えると、ゴミ箱にぽいっと捨てた。
10年後
そんな手紙があったことすら忘れた私に、苦難などなにも起こらなかった。ただ私を支えてくれる旦那様とは出会えた。
そんなある日郵便受けを見たら、更に10年後の私と書かれた手紙が入っていた。
また読まなければならない気がして封を開けてみた。
そこに書き記されていたのは
あの時の手紙を読んでくれてありがとう。おかげでなにも起きなくて済みました。
だった。
そして、
あの手紙は、あなたに降りかかる災厄を祓って、倖せを呼び込む為に書いたものです。あなたが倖せでいてくれて良かったです。
読んだ後、捨ててくれたから効力を発揮しました。
そう書かれていた。
あの手紙が私の災厄を祓った?そんなチカラが込められていたなんて。まるで人形みたいだ。
私も10年前の私に手紙を書いてみよう。
10年後の私から手紙が届いた。
何を言っているのか分からないと思うけど、私も分からないので仕方がない。
近所に手紙を出すと10年前の自分に届くというポストがある。
最初はこの都市伝説にちなんだ、ただのイタズラだと思っていた。
そしてこの手紙には、これから起こるであろう様々な出来事が書かれていた。
病気の感染、外国の戦争、日本での大きな事故、有名な事務所の不祥事。
だがどれもこれも荒唐無稽で信じることはできなかった。
だけど月日が経つにつれ、私は考えを変えることになった。
手紙が届いてから一年の内に、書かれている出来事の一割が起こったのだ。
寸分の狂いもなく、正確に事件や事故が起こった。
起こってないもう9割の出来事は、日付が未来となっている。
未来の事ではあるが、絶対に起こることなのだろう。
ここまで来ると、さすがに信じるほかなかった。
(そこまで分かるんなら、宝くじの当選番号くらいかけよ、とも思ったが)
だが……
『私』から、というのは絶対に信じることができない
だってこの手紙、もすごい綺麗な字で書かれているもの…
私の字は汚い。
どんなに頑張ってもこんなに綺麗にかけることはない。
かつて字をきれいにしようとしたこともあるが、時間の無駄だった。
ある人は『ミミズが這ったような字』、ある人は『これには解読班を呼ぶ必要がある』、またある人は『これは紛れもなく宇宙人の文字。宇宙人は存在する』とまで言った。
さすがに最後のやつは殴った。
たった一つの相違点。
それだけだが、この手紙は私を語る偽物が書いたと断言できる
もちろん10年後に字がきれいになる未来があるかもしれない。
しかし、それならば字の事について言及があるはずだ。
でもそれがないことはおかしい。
つまり私ではなく、私を語る偽物が書いたのだ。
証明終了。
そしてもう一つ不可解な事。
それは、これだけのことをしておいて、私にさせたいことが意味の分からない。
『指定の日時に指定の場所に行くこと』
そこで何が起こるかも、何をすればいいのかも書かれていない。
意味不明である。
なにかのイベントがあるのかとも思ったが、調べても何も出ない。
もしかしたら、暗殺者がいて私を殺すつもりなのかとも思ったこともある。
だけどそれにしては回りくどい。
直に殺しにくれば話が早くて確実である。
この手紙の差出人は何が目的なのか?
それを理解するために、この場所に行くしかあるまい。
行かないという選択肢は、私の中には無い。
なぜなら、ここで行かなければ、死ぬまでずっとモヤモヤが晴れないだろうからだ。
さすがに『ま、いっか』で済ますには見過ごせないことが多すぎる。
指定の日付は来週。
鬼が出るか蛇が出るか。
それはその時になってみないと分からない
期待と不安が入り混じりながら、その日を待つのだった。
🕙 🕙10年後🕙 🕙
今でもあのことを思い出す。
あの手紙によって私の人生は大きく変わった。
あの指定の日付に指定の場所に行くと、私は運命的な出会いを果たした。
そこには新しく結成されるアイドルグループの宣伝ポスターが張られていた。
私はそのポスターを見た瞬間、ハートを撃ち抜かれた。
そこには、ストライクゾーンど真ん中の美男子が大きく映っていたのだ。
そして死ぬまで推していくことを、その場で誓った。
有休が取れない仕事はやめ、融通の利く仕事へと転職した。
そして空いた時間をフルに使い、ライブや握手会は全て行った。
何度も行ったので、完全に顔を覚えられたのは笑い話である。
ファンレターも出した。
さすがに汚い字のまま出すわけにもいかず、必死になってきれいな字を書いた。
すると継続は力なりと言ったもので、ある程度キレイな字が書けるようになっていた。
愛は偉大である。
後で知ったのだが、宣伝ポスターはいろいろ事情があって、あの日あの場所でしか張られなかった。
つまり、あのタイミングを逃せば推しに会えることは無かった、と言うことだ。
テレビで見ることはあるかもしれないが、前職の毎日残業デーという状況下ではテレビを点けたかどうかすら怪しい。
つまり、私に確実に認識させるためには、あの場所に向かわせることが最善だったのだろう。
そして彼は今でもテレビで活躍している。
あの時会った美男子は、年を取ってイケメンになった。
だけどあの時と変わらない輝きで、私の人生を照らしてくれる。
彼と出会わなければ、私の人生は今でも暗い物であっただろう。
感謝をしてもしきれない。
そして私は手紙を書いた。
彼にではない。
十年前の自分あてに。
疑われないよう細心の注意を払い推古する。
書くのは最低限、自分のことはほとんど書かない。
字がきれいになった理由もだ。
ネタバレしてはつまらないからね。
最後に十年前に自分に届くと言われるポストに手紙を出す。
ただの都市伝説だと思っていたが、実際届いたので本当だったらしい。
なんでも疑ってかかるのはよくないな。
なんにせよ、やれることはすべてやった。
これなら彼と確実に巡り合うだろう。
十年前の私よ。
手紙を出した私に感謝するといい。
そして彼に最大級の愛を捧げるのだ!
あ、宝くじの当選番号書くの忘れた。
連絡途絶えちゃったね
何してるんだろう
めんどくさくなったかな
いつも貴方のことを考えてしまう
不安しかない
10年後の私から届いた手紙
10年前の私へ
今、あなたは選択を迫られてたり、辛かったり、心配だったりするでしょう…残念ながらまだまだです!
これからも次々問題が起きてジタバタしながら前に進むしかないです。
でも大丈夫!
正解でも間違っててもしっかり悩んで、考えて、傷ついて、一生懸命出した答えだから!頑張れ!
あ!私は今からあなたがずっと行きたいって言ってた世界一周に行ってくるよー バイバイ♡
こんな手紙だったらいいな…
これを読んでるってことは人生に絶望したのかな?
10年前の私、お疲れさま。
人生いろいろあると思うけど、笑う門には福来たるだよ!いつでも笑顔をたやさないでね。
「は……能天気すぎでしょ」
抽斗の中を片付けてる最中に見つけた水色の封筒。何かと思って開けてみたら自分からの手紙だった。“10年前の私”、ってことは27歳に書いたのか?なんで未来の手紙がこんなところに。どういう仕組みでこんなものが存在しているのか分からないけど、それにしてもひどく他人事な文章だなと思った。
未来の私は悩みなんて無いのかな。今の私はまだ学生の身だから正確には大人とは呼べない。気持ちはまだまだガキっぽいところがあったりする。相手の顔色とか機嫌ばかり気になっちゃう。今日もクラスのあの子から嫌がらせ受けたけど、何も言い返せなかった。10年後の私が見たら何て言うかな。この文章からして、情けないっ!とか無駄に正義感振りかざしてきそう。やられたらやりかえしなよ、とかも言いそう。それができたらやってるってば。
「はあ。……ん?」
手紙は1枚ではなかった。もう1枚、便箋よりもひと回り小さな紙が入っている。広げるとそれはハート型のメモ用紙みたいな紙だった。その中心に、大きく書かれていた言葉は、
「ケ・セラ・セラ……」
なるようになる。たしかそういう意味だったっけ。思い出しながらもう一度呟く。ケセラセラ。すると不思議と重たい空気は緩和されてゆく気分になった。どうにかなる。なるようになる。そんな気がして。さらに呟く魔法の言葉。
「ケセラセラかぁ」
思い悩んでいたことがちっぽけに感じられた。不満も悩みも尽きない、そんな年頃だけど、どうにかなるって思えたからぐっと心が軽くなった。10年後の私、ありがとう。きっとどっかで見ていてくれたのかも。大人になった私は優しいんだな。
じゃあ、もう少しだけがんばってみる。密やかに決意して、ハート型のそのエールの紙を再び抽斗の奥にしまった。
10年前は
「あたし、アイドルになるんだっ!」
とか言い張って、周りから
「えー!すごーい!」
って、10年前の私は人気者だった。
10年後の今、もう高校生。
受験勉強が大変な中、
10年後の私へ手紙を書いた。
次は真剣な夢を──
┌─────────────────────┐
│ 10年後の私へ │ │ お元気ですか?10年前の私です。 │
│ 私は今、看護師になりたいです。 │ │ 何事も全力で取り組むことを約束して下さい│
│ │
│ そして、10年後も夢に向かって │
│ 歩み続けていると私は信じています。 │
│ 10年前の私より │
└ ─────────────────────┘
綺麗なクリーム色の封筒に入れると、
学習机の引き出しの奥に優しく置いておいた。
「10年後の私から届いた手紙」
手紙の形、四角形作るのめっちゃ大変でした〜
角や辺など...何とかつくり終えました
これだけで30分以上はかかったかと思います💦
そういえば、
先週の金曜ロードショー見た人いますか?
先週の「かがみの孤城」、好きでレンタルして見たり
小説も上と下買いましたー!
本当は映画館で見たかったのですが、
当時はすずめの戸締まりを映画館で見たので
かがみの孤城はレンタルして見ることにしました。
私、新海作品が好きなんです笑
タイムカプセルを埋めようと思った。
大切な宝物を一つ一つ紙に包んで、一等お気に入りだったお菓子の缶に、丁寧にぎっしり詰め込んだ。
幾らか重たくなった缶を抱えて、私だけの秘密基地、金木犀の木の下に埋めようと土を掘った。
かつん、と。
少し掘って直ぐに金属音がした。
沿うように掘り進めると、それはお菓子の缶だった。
丁度、今私が持っているのと似た缶だった。
蓋を開けてみるとスカスカで、便箋が一つだけ入っていた。
『明日に9歳になる私へ』
『明日、知らない人が誕生日祝いに来たら、絶対に着いていくんだよ』
『宝物を埋める必要もない。一緒に持っていけば壊れることはないから』
『"私"が今の"私"に辿り着けるよう、健闘を祈るよ』
『無事大人になった私より』
「……そっか」
少し土で汚れてしまった手紙を畳み直し、再度便箋に入れる。
埋まっていた缶を確認すると、確かに、10年程先の賞味期限が読み取れた。
「うん、そっか」
元通りに缶を埋め直し、宝物を入れた缶を抱え直す。
此処にいてはいけない。
逃げる準備を、しなければ。
<10年後の私から届いた手紙>
「ねえ"私"さん」
「貴方は"私"じゃないから知らないのでしょうけど」
「明日誰が来るのかも、何で連れていきたいのかも、私もう知ってるの」
「そういえば、タイムカプセルの話をしてくれたのも、この手紙を読ませるためだったのかしら」
「未来を騙るなんて、本当に鬼みたいな人達ね」
10年後の私から届いた手紙
10年後の私から届いた手紙なんて、
その内容は想像できないけれど、
いい時を過ごしていたと
懐かしく思えてたらいいのにな。
もし今の私が、10年前の私に手紙を書くなら、
頑張ってるね、少し力を抜いて楽しんで、
と伝えたい。
あの頃はいっぱいいっぱいだったから。
#173