夜空の音

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10/26/2025, 10:34:27 AM

終わらない問い

いつも頭に浮かぶのは同じ顔。
どこにでもいそうな、平凡な顔。
そこら辺にいる、少し素行の悪いクソガキ。
夜中に走る車も、夜になると沢山いるうるさい車の1つ。

今までの人と同じように、愛を囁いて離れていった。
顔が好きだと、そう言った。
中身を見ずに外側の殻しか見ない、元恋人の1人に過ぎない。

それなのに、どうして....。
あなたに恋してしまったのだろう。
あなたしか見れなくなってしまったのだろう。

10/25/2025, 1:11:29 PM

揺れる羽根

風が吹く。
その風に乗り、1話の烏が青空を切り裂くように横切る。その翼は黒く、羽根の1枚1枚が太陽に照らされてツヤツヤと濡れたように光る。

烏は山へ降り立った。
野生の生き物と言葉を交わし、木漏れ日を浴びながらスイスイと木々の枝葉を避けて飛んだ。
一声鳴くと、辺りに響き声が帰ってくる。
風が優しく吹き、烏の羽根を優しく揺らした。

烏は海を羽ばたいた。
黒い翼は水面に反射し、水面下の生き物に目もくれずに飛び続けた。太陽の日差しが増し、濡れた羽根も煌めきが増す。
一声鳴くと、どこまでも遠くへ声が響き渡る。
風が強く吹き、烏の羽根を激しく揺らした。

烏は都会にたどり着いた。
所狭しと並んだ建物を下へ避けながら、広い空を悠々と翼を大きく広げて羽ばたいた。
地面に這い蹲るように居る二足歩行の生き物が有象無象にいる。奴らは狭く暗い地面を歩き、下を向いていた。青く広い空を見上げることはなかった。
なんともったいない
烏は二足歩行の動物を憐れむように一声鳴くが、都会の騒音に呑まれ声は消えていった。
バシッと音がして、烏は落ちた。透明の何かにぶつかり、そのまま真っ逆さまに落ちていった。
窓と地面からの衝撃で、烏は路上で息絶えた。
かわいそうに
気持ち悪い
二足歩行の動物は烏を憐れみ侮蔑の視線を向け、その声は意識が遠のく烏の脳内に響く。
時間が過ぎ、烏の身体は温度を失い固く固まっていった。
風が冷たく吹き、烏の羽根は揺れることはなかった。

10/23/2025, 3:27:02 PM

無人島に行くならば

無人島に行くならば、私は何を持っていこう。
無人島に行くならば、荷物は全て捨てていこう。
無人島に行くならば、大切なものだけ持っていこう。
無人島に行くならば、思い出をたくさん持っていこう。
無人島に行くならば、それ以外は何もいらない。

思い浮かんだメロディを口ずさみながら、私は荷物を整理していた。
要らないものは捨てて、捨てて、捨てて....。
カバンに収まったのは寝巻きとタバコ。あとはいつものお財布やポーチなどこの家に来る時いつも持ってきたものだけだった。
ゴミ箱のないこの家にあるのは大きなゴミ袋。私のものがあった場所はただの空間になっていて、そのゴミ袋に詰め込まれていた。

カチッと火をつけ煙を吐くと、少し頭がぼんやりとする。
そのぼんやりとした頭で、ぼんやりとソファーに座り、ぼんやりと部屋を眺める。

2人でソファーに座りたくて、“おいで”と言われたくて床に座って、ソファーに座るあの子の顔を見ながらタバコを吸った。結局欲しかった言葉は無くて、おいでと言って欲しかったと拗ねたように伝えると、「そんなに座りたかったら勝手に隣に来いよ。」と呆れたように言われた。
それでもベットに寝転んだあの子はソファーに戻ってきて、片膝を立てて背もたれに添わせ、私の座れる場所を作ってくれた。
でも“おいで”とは言ってくれないあの子は意地悪で、空いた空間はあの子の優しさが詰まっていた。そんな思い出がある。
でも、このソファーは、持っていけない。あの子のものだから。

ベットに6月末なのに季節外れな冬用の掛け布団。暑がりなあの子と、寒がりな私。
あの子は4月末には暑いとエアコンをガンガンにかけて寝ていた。私は寒くて、震えていた。でも、あの子の隣で寝たくて、あの子の腕の中で寝たくて、我慢しようと思った。
あの子は私を布団でぐるぐる巻きにして、暑いといいながらも抱き寄せてくれた。
あの布団が今でも片付けられないのは、あの子の物言わぬ優しさだと思う。そんなあたたかな思い出がある。
でも、この布団は、持っていけない。あの子のものだから。

手元に残ったタバコは、あの子のタバコの匂いがした。あの子が吸うのと同じもの。このタバコを吸いながら笑うあの子を思い出す。
あの笑顔の記憶と、タバコの匂いと、タバコは私のもの。だから、持っていける。

カバンに入れた寝巻きを取り出して、ギュッと抱きしめる。あの子の匂いがした。少しタバコ臭いこの匂いはきっと、いつも私を抱きしめて寝てくれたせいだ。
この匂いと、優しさと、寝巻きは私のもの。だから、持っていける。

もう一度タバコに火をつけて、さっきのメロディを口ずさみながら、続きを歌う。
無人島に行くならば、大切なものだけ持っていこう。
無人島に行くならば、思い出をたくさん持っていこう。
無人島に行くならば、それ以外は何もいらない。
無人島に行くならば、もっと気持ちが楽だった。
無人島に行くならば、こんなに悲しくならなかった。
無人島に行きたかった、監獄なんかに、実家になんか行かず。
監獄に行きたくない、あの子といたいから。
監獄に行きたくない、悲しいから。
あのこと離れることが、何よりもの地獄。

10/19/2025, 10:20:19 AM

君が紡ぐ歌

少しひしゃげた歌声が響く。
少し古びた曲調が響く。
少し音のズレたコードがギターから響く。
全て貴方から響く音だった。
全て貴方が教えてくれた曲だった。

真冬の河川敷で、少し震えながらギターを鳴かせ、枯れそうになりながら声を響かせる。
そんな貴方と、震えながら隣にいる時間が何にも変え難い幸せな時間だった。
貴方の鳴かせるギターのコードは音程がズレていて、辺りを歪める。歪みきった辺りを1本の剣のように貴方の声は私の耳を、心を突き刺す。
満足気に歌い切り、カタカタと震えカツカツと歯がぶつかる音がする。それでも貴方は満面の笑みで、赤くなった指の痛みを感じていないようだった。
そっとカイロを渡すのは、私の役目だった。ありがとう。と笑って受け取る貴方を見る、特等席だった。
そうして、何度もギターを鳴かせ、声が枯れるまで貴方は私の隣で歌っていた。

今日も、あの日の動画を見つめる。
貴方の突き刺すような歌声は機械では丸くなってしまい、ギターの歪みはほとんど聞き取れない。
あの日と似ても似つかない歌が流れる画面には、寒さを堪えながらも嬉しそうに歌う貴方の姿があった。
私は、そんな貴方にカイロを渡せない。

10/17/2025, 1:09:24 PM

砂時計の音

「好きです。」
その言葉に断りを告げる。
「俺のとこに来たら幸せにしてみせます。」
そんな言葉を自信もって言える姿を羨ましく思いながら、断りを告げる。
「俺に沼らせてみせます!」
無理だよ。と、断りを告げる。
何度繰り返しただろうか。断ることにも疲弊してきた私は、ある時断り以外の言葉を口にした。
「わかった、いいよ。」
その言葉と共に砂時計の音が響き始めた。

砂時計が落ちるにつれ、彼は敬語を使わなくなった。
「好き。」
ありがとう。
その繰り返し。

砂時計が有限であることを忘れた私は、気づかないうちに彼の沼に沈んでいた。
「ねぇ、ぎゅーして?」
「ねぇ、どうして笑ってくれないの?」
「ねぇ、こっち見てよ。」
私が沼に沈んだ頃には、砂時計は半分を切っていて、彼の心は離れかけていた。

「どうして笑ってくれないの!どうしていつもいないの!どうして?」
どうして?なんで?
砂時計の残りが減ると共に、私は不安定になった。音がうるさくて、彼の声が聞こえなくなった。
「嫌いにならないで!ごめんなさい、ごめんなさい!すぐ出ていくから!嫌いにならないで....。」
壊れた私は荷物をまとめて彼の家から飛び出した。
砂時計の最後の1粒が落ちきった。
サーっと響いていた音が無くなると、魔法が解けたように涙がこぼれ出し、感情を知った。
「好きに、なってたんだ....。」
沼らせる。彼は有言実行していて、私は気づかないうちに沼に落ちていたのだった。
それからどれだけもがいても、砂時計の砂が元に戻ることはなかった。
音と彼が無くなった世界で、涙を零し続けた。

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