溢れる気持ち
あれがしたい。
これもしたい。
ああなりたい。
こうありたい。
そう、気持ちを包み隠さず大きな声で言う貴方は、眩しく感じる。
眩しすぎて、目を逸らしてしまう。ちょうど、真夏の太陽のようだ。
1度、聞いてみたい。
どうしたらそんなに気持ちを表現できるのか。
どうして、気持ちが溢れるほどの感性を持っているのか。
そんなことを聞くと、貴方は呆れるだろうか。
いや、聞かなくともわかる。
自分を押さえ込みすぎたのだと。心を凍らせすぎたのだと。
思えば幼少期は気持ちが溢れて止まらないことが多かった。それを、“年上だから”といなされて、感情の抑制を覚えていった。
押さえ込みすぎて、心が溢れるほどの感情は不要だと判断したのだろう。
失くしたものを取り返すように、必死に自分の心に耳を傾けるが、声の聞き方を忘れてしまった。
壊れてしまったのだろうか。
いや、感情が知らぬところで溢れて、壊れてしまったんだ。
きっとそうだ。
いつか心の声を聞けるようになれば、この足枷のような病気も治ると信じたい。
Kiss
静かに眠る彼女の額に、1つのキスを捧げた。
彼女は微笑んでいて、僕の胸は苦しくなる。
今朝、いってきますとキスをした。
彼女は可愛い笑顔でキスに答えながら、いってらっしゃいと笑っていた。
少し体温の高めな彼女の唇が好きだった。
その唇が、今はもう温かくないことを知っている。それに耐えられる自信がなくて、額へキスを落とした。
翌日、多くの人が彼女に別れを告げにやってきた。
最後の1人を見送り、僕もこの場を離れようと思うが、どうしても彼女のそばを離れたくない。
そろそろお時間です。と、係の人に部屋の外へ押し出された。
「すみません。」
僕は係の人の静止を押し切って、彼女の元へ駆けた。
彼女の顔をもう一度見て、唇にキスをした。
「ただいま。....いってらっしゃい。」
最後のキスは、冷たくて、ほんのり塩の味がした。
勿忘草
車に乗ると、意味深な表情で私を見る友人がいた。
「なに。」
私は前回会った時にした喧嘩をまだ引きずっていて、今日は渡すものがあるから来ただけだった。
「はい。それじゃあ、帰るから。気をつけて。」
それだけ言うと、私は車から降りて帰路へ着く。
「待ってください!」
後ろから追いかけてきたのは、友人の隣にいた子だった。
「待ってください、ほんとに、これで終わりでいいんですか?もう、会えなくなるかもしれないですよ。」
この時私は、別にいいと思った。
ただ、必死になって説得しようとするこの子が可哀想になり、私は車へ戻った。
「この子必死だったから戻っただけだけど、なにかあるなら早くしてくれる?」
私は、この時とても冷たい顔をしていたと思う。
少し言い淀んだ友人は、静かにピンク色の勿忘草を差し出した。
「....ごめん。この前言いすぎた。」
私は冷めた目で勿忘草を見つめる。
追いかけてきた子が、受け取ってくれと目で訴える。仕方なく、それを私は受け取って、上辺だけの、「いいよ。こちらこそごめん」を口にした。
後に、この選択を思い出す度に良かったと思うようになった。
今も隣にいる友人は楽しそうに私にこれを見せたかったとTikTokを見せてくれる。
今では唯一無二の友人だと、胸を張って言える。
それが、私たちだ。
勿忘草:私を忘れないで 真実の愛 誠実な愛
ピンク色の勿忘草:真実の友情
ブランコ
キィ、キィ。と小さく音を立てる。そんな古びたブランコに腰掛けた。
時間は明け方の4:00。公園には誰もいない。
そんな時間に、私はタバコと缶チューハイを両手にブランコに腰掛けた。
明日も早い。
それでも、仕事が終わらず帰るのがこの時間になってしまった。
立ち仕事で足は限界を迎えており、どこかへ座りたかった。
昔はこのブランコで遊んでいたのに、大人になると漕ぐことすら忘れてしまったらしい。
ただ、足をプラプラと浮かせて、風の吹くままに揺られた。
あなたに届けたい
“世界で1人 あなただけに
あなただけの元に 届くように
歌っているよ 聞こえてますか
気付いてほしいよ 私の想い”
イヤホンから流れてきたラブソングに、心を奪われた。
いつものように、知らない曲も聞きたい私はシャッフル再生していた。そんな中、流れてきた曲だった。
あいつだけを見ていた。
あいつに私の気持ちが届けばと願っていた。
でも、私はこの気持ちを歌うことはなかった。
隠して、隠して。誰にも見せないようにしていた。
あいつ自身にも隠していた。
だから、あいつに届かなかったのかもしれない。気づかなかったのかもしれない。
好きだと伝えると、面食らった顔をしていた。つい1時間前の出来事だった。
<引用 erica:あなたに贈る歌>