【二人だけの】
二人だけの時間をください
アナタの時間を私にください
写真の角をつなぎ合わせるような
ささやかな人生を送りたいの
【夏】
夏休み中の俺と……俺だと自分は信じてる
アレはイタズラなんかじゃない
心の中で考えていること全部を知っていたじゃないか……
うたた寝したんじゃないか、と言われたら
そうかも知れない、そうであって欲しい
アレが夢なら俺は今、迷っては居ない
0時になった
ラジオのオープニングと同時にチューニングが合わなくなってキュンキュンガガガガツーガガガガ「イ・マ・キ・イ・テ・イ・ル・ノ・ハ…………コウサン、ガガガガガガノ…オレカ……」キューンーガガンガガンンンンン……少し静かになった後「俺は未来の43歳の俺だ……運命を変えてしまってもいいと思っている……もしかして今よりも不幸になるかも知れない……から、高3の俺には申し訳ないけど
今、夏だろ……そう設定されている
まず、第1志望の大学へ行くのはやめて欲しい、お前は理系じゃない……信じられないかも知れないが……理系かも?のレベルだ…文系の勉強はつまらないんだろ?もっと工夫して
文系の大学にしろ………アノ女に出会うキッカケがなければ、こんな事にはならなかった……だから絶対に文系の大学にしろ……
コレは夢ではない…俺の5年分の命と引き換えに過去の俺に話をする権利を買ったんだ、、、頼んだよ…お願いします」
そう言うとラジオはプツンと切れて
直にDJの他愛もない話が流れてきた
こんな事ってあって良いのか?
時計をみたら0時のまま
ほら…夢だよ
でも夢じゃなかったら?
未来の俺は時間を来たときの0時を帰りに合わせて来たんじゃないのか?
どうする俺……
運命はどんな事があっても変えてはいけない
とんでもなく多くの人に影響も大迷惑もかける
それに大学は……やっぱり第1志望に入りたい
するとラジオから大きな声が飛んできた
「何、躊躇して、1人で良い子になってんだよ!俺はまた5年分の命と引き換えに話をしている、合わせて……10年だ…分かるか?俺は本気だ!」
高3の俺ほやっと言い返した
「分かるよ……43歳のオッサンの俺
あんた………めっちゃギャンブラーになってるんだな
俺が言う事を聞く事に賭けて10年分の命を賭けたんだろ?
そんなに返せない程のギャンブルに負けたのかよ
大人なら自分でな・ん・と・か・しろよッ
がんばれオッサンの俺」
【隠された真実】
奈々はお昼寝させている2歳の一人娘の楓の顔を愛おしく見ていた
夏の帰省を利用して祖母の家に遊びに来ていた
祖母は奈々の傍らにきて楓を見て「本当に可愛らしいこと」と目を細めた
奈々は楓が主人の健にどこも似ていないことや
親戚の誰にも似てないと言われる度にドキドキと鼓動を速くした
「奈々ちゃんスイカ、食べない?」祖母は奈々にニコリと微笑んで言った
祖母と奈々はスイカを食べながら
「奈々ちゃん、もうボケた老人が話していると思って聞いてね
真実は1つ、この世に置いて行きたいの
あの世へは持って行けない
だってエンマ様に舌を抜かれちゃうと
笑って見せた
奈々ちゃんのお父さんは亡くなったお祖父ちゃんの子供じゃないの、お祖父ちゃんもさぞあの世でびっくりしてるでしょうね、してやられたか!ってねと笑って言う
お祖父ちゃんと結婚前に、お祖母ちゃんは
愛する男性と関係を持ったの
一度で良いからって、思い残すことなく
結婚したいからって、親同士が決めた結婚だから自分の意志で何かしておきたかった
そしたらね…昌宏がお腹に宿ったの
お祖母ちゃんは大事に育てたわ
昌宏と奈々ちゃんのお母さんの間には子供が出来なくて…そう奈々ちゃんのお母さんは違う人よ、それでも奈々ちゃんは両親に大事に育てられて来たわよね
昌宏と奈々ちゃんのお母さん浩子さんの間に子供が出来なくて乳児院から可愛い女の子、真美ちゃんと名付けたの、そう真美叔母さん
昌宏と浩子さんは本当によく可愛がったわ
だけど昌宏と真美ちゃんは愛し合うようになった…そこで産まれたのが奈々ちゃんよ
昌宏と真美ちゃんが結婚する話もあったけど
その時だけは浩子さんは人が変わったように
それだけは許さない、自由にさせないと言って
我が子として育てたの
人の生命なんてそんなものよ
深く考えなさんな
奈々ちゃんだけじゃないの
よくあることなのよ
人生なんて【生きてこそ】
普段通り生活していればいいの
祖母は涼しい顔で言った
【風鈴の音】
小学生の頃に風鈴ちゃんという友達が居た
「風ちゃん」と呼んでいた
風ちゃんは大きなお兄さんお姉さん二人……かな?働きに出ているお兄さんとお姉さんと中学のお姉さんがいたと思う、思うと言うのは中学のお姉さんしか見たことがなくて、そう聞いていた
中学のお姉さんがいない時、
一度お姉さんの部屋で風ちゃんと遊んだ
私は「大丈夫?本当に怒られない?」と何度も風ちゃんに尋ねた
直に部屋を出られなかったのは
外から見ると斜めに倒れそうな風ちゃんの家から想像もしないくらいキラキラしてて
お部屋は広くて光がいっぱい入って
風ちゃんは今流行りのレコードを次から次と流してくれて、夢心地になって離れられなかった。
風ちゃんはよく此処から1時間半の大きな街に大きなお姉さんは17歳で子供を産んで住んでいると言う、中学のお姉さんも中学を出たら
同じ街へ行くと言っていた
そのお姉さんが家を出た頃から
風ちゃんの家は暗く斜めにひっそりと建って見えるようになった、本当のボロ家になりつつあるのは風ちゃんの家の貧乏度が増したからだと思っていた。
ある夏の日、風ちゃんと遊んでいて裏口から
家にお邪魔した、小窓が1つあって薄暗かった
風ちゃんがくれた茹でて冷えたトウモロコシを二人で食べた、美味しいけど寂しい感じがした
風ちゃんの口ぐせは「私が中学校を卒業したら家族で、お姉さん達の居る大きな街へ行くんだ」と嬉しそうに話す事だった
風ちゃんのお父さんは足を大怪我したとかで
もう働いていないと、風ちゃんが一度言っていたのを思い出して「お父さんが家に居ても大丈夫なの?」と小声で風ちゃんに聞いた
私は未だ食べかけなのに「もういいよね」と言って私の手からトウモロコシを取って片付けて
家の外に出た、光が眩しくてちゃんと景色が見られなかった、直にキレイな青空が目の前に広がった……風ちゃんは中学校を卒業どころかその半年後、突然一家で居なくなった、私の家からは当然だけど【風鈴の音】1つ聞こえなかった
私は裏口からトウモロコシを食べるまで
大きな街へ行く風ちゃんが羨ましかった
大きな17歳のお姉さんがキラキラした街で子供もいて憧れに近いものがあった
けど17歳で高校も行かないのは風ちゃんと話をしていると当たり前だったけど
風ちゃんが居なくなると魔法がとけたみたいに「高校へ行かないのはどうしてだろう」とずっと心の中で引っかかっていた思いが大きくなった
空っぽになったのか家の中は見ていない
傾いた家は左斜めに倒れそうなのを持ち堪える様に建っていて
風ちゃんの「お姉さんの居る大きな街へ行く」と言う口ぐせが風ちゃんを持ち堪えさせていたのかとそんな風に思って……もう誰も居ない風ちゃんの家を見ていた
【心だけ逃避行】
心は走る、街並みの人を避けて森を抜けて
あの湖まで駆け抜ける
誰にも見つからないように、声をかけられないように、湖の淵に立つ
青空と白い雲が湖に映る、そんなありきたりな表現しか出来ないけど、此処は幼い頃に父と釣りに来た場所
愛犬と走った場所
母と腕を組んでお喋りして歩いた場所
もう誰にも会えないけど
此処は私の心躍る場所