佐々宝砂

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10/5/2024, 11:19:26 AM

星座

星座ってのは理不尽なもんだなあ。いま見える、ほらあれはアンドロメダ座だ。アンドロメダのαは97光年離れてる。アンドロメダ銀河は250万光年遠くだ。とんでもなく離れたものが地球では同じ星座に並んでる。250万光年も離れてるってことは、時間もそれだけ違うんだぜ。そのまるで違うものが並んで見えるって、めちゃくちゃ理不尽で不思議だよなあ。

ジイさんは饒舌に語ったあと眠ってしまった。ほくは宇宙船の窓から宇宙を見上げる。ぼくたちが地球を離れて40年。アンドロメダ座はもうアンドロメダ座の形をなしていないらしい。船生まれのぼくはそもそもの星座を書物と映像でしか知らない。星座というのは不思議なものだ。時間も空間も離れたものを見かけだけでまとめてみなした美しい虚像。

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星座の話は大好きです。こどものころ草下英明や藤井旭の星座の本が好きでよく読みました。野尻抱影もいくらか読みました。特に好きな星座はからす座です。春の夜空のからす座はぴんと張ったヨットの帆のようでどこかに進んでゆきそうな気がします。夏の夜空のとかげ座といるか座と、こと座とかんむり座も好きです。天の川の中にある小さな星座のような小ぢんまりした星座が好きです。

冬の星座は明るくて派手なのが多いですが、小さな星座もあります。私は以前「オリオンの足に踏まれたうさぎ座のそのまた下の星みたいな人」という短歌を書きました。ちなみにうさぎ座の下にあるのはハト座。暗い星ばかりの小さな星座ですが、ノアの方舟にオリーブの葉を運んだハトだそうで、なんとなく希望を運びそう。

「時間も空間も離れたものがひとつの瞬間に出会ったもの」を星座(Konstellation)と見なす元ネタはヴァルター・ベンヤミンです。私たちの思考はそれぞれ違う唯一無二の星座なんだと思います。

10/4/2024, 10:49:38 AM

踊りませんか?

その誘いに乗るということは、あたしにとってはただ一度だけのこと。あなたにとっては数多くの適当なお誘いのひとつ。それくらいあたしだってわかっているわ、だけどあたしはあなたにそれを言わない。だってそんなこと言ってもこれっぽっちもいいことないし、よく考えたらあたし、あたしの身の上にいま何が起きてるかわかってないのだわ。夢かおとぎ話でないのならいま起きていることはなんなのかしら。あなたがツァーリと呼ばれているのをあたしは聞いてしまった。でもあなたにどんな立場の誰だとしても、あなたが「踊りませんか?」と言ったら断れるわけがないのよ。あなたがツァーリであっても、なくても、あたしの気持ちは偽れないのだもの。

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元ネタは映画「会議は踊る」です。よくある男爵令嬢や平民の女の子が王太子をたらしこむ話を書いたんじゃありません。そうした話の元ネタの一つとして「会議は踊る」を見てほしいかなと思いました。最近の異世界恋愛ものでは悪役になりがちな平民ヒロインの愛らしさを、たまには堪能してみてください。

10/3/2024, 10:43:49 AM

巡り会えたら

この脱力感。つまらなさ。ありきたり。凡庸。どうでもいい。人間の欲望のあさましいこと。まあ毎度のことだな。そう思いながら書類を分類する。ここは基本的に人間の願いをかなえるとこなの。

幸運に巡り会いたいみなさんはこっちの山。不運に巡り会いたいみなさんはこっち。割といるんだよ? あと驚きがほしい人はこっちの山。特にそういうの望んでない静かに穏やかに暮らしたいみなさんはこっちの山。で、ここのすっごい少数派は「巡り会いたくない」みなさん。じゃないな、ほぼひとり…? だよね、確認したよひとりだ。何度輪廻しても願いが「巡り会いたくない」なんだよ。この人どういう人なんだろう。

転生事務局の祈祷申請課で私は一枚の書類を見つめる。私は一介の下っ端天使だけど、この「巡り会いたくない」人に巡り会ってみたい。すっごく迷惑がられそうだけど。というかこの人のことやたら気にしてたらこの部署クビになりそうな予感。

10/2/2024, 10:46:21 AM

奇跡をもう一度

奇跡は二度ないから奇跡なのだ、人の子よ。私は二度目の奇跡を願って祈る少女を見つめた。少女の父親は一度重い肝臓の病から奇跡的に生還した。私の力でそうしたのだが、二度目はない。あの男はまた酒で己の肝臓を痛めた。全く愚かなことだ。奇跡を願う少女も愚かだ。むしろあの男がいなくなるほうが幸せになるであろうに。人間は基本的に愚かだ。少女の背後で舞う落ち葉が一瞬ハートのかたちに並ぶ。ああいうなんにもならない奇跡が毎日起きていることに気づかず、自分の心の安寧のためだけに奇跡を願う。人間というものは理解し難い。時に奇跡を起こせる精霊である私は、もう長く…本当に長く生きたが人間がわからない。いつかわかるかもしれぬ。奇跡は日々起きているのだから。

10/1/2024, 10:29:51 AM

たそがれ

薄い皮一枚へだてた向こう側の薄明界は、たそがれのときにもっともこの世界と近くなるのだと先生は言った。まるで薄明界に去っていったかのごとく先生は行方不明になってしまったのだけど。

たそがれどきがくるたびに僕は街を歩き、幻の瓦斯灯を探す。そこが入口かもしれないと先生が言ったからだ。…見慣れた路地に見慣れぬ袋小路があったらそこ…と先生は言ったっけ、思い出せないがこれは案件だ。

この街生まれで知らぬ路地などないはずの僕の前に現れた知らぬ袋小路の奥に小さな石造りの階段がある。この先に、先生はいるのだろうか。

「夜明け前」の続編です。

「夜明け前」
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